”空手革命家” 塚本徳臣~33連勝 優勝取消、胴廻し回転蹴り、マッハ蹴りの閃き!

2024年4月11日

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塚本徳臣だけを特別扱いするつもりは最初なかった。

私が述べた、極真史上最強の五人は、どれが上だとか下だとかが語ることが出来ない、完成された、まさに武道の体現者たちだ。

それぞれが、長さの違いはあるとは言え一回の紹介で終わっている以上は、塚本徳臣も同様の扱いにするつもりだった。
しかしやはり改めて考えてみても、一度の紹介では彼のことをほとんど語ることが出来ない。

世界大会決勝唯一無二の奇跡の大逆転一本勝ち

優勝者が決められていた決勝戦

そして迎えた決勝戦。

松井派、そして支部長協議派に分かれた、初の世界大会。
それは半分は、優勝者があらかじめ決められていたような大会だった。

それは反対側から上がってきた、鈴木国博。
圧倒的なパンチ力、そして強烈なローキックを持つ、質実剛健として、まさしく極真空手家の典型とも呼べる男だった。

満身創痍

対する塚本徳臣は、まさしく強敵との激闘により、満身創痍だった。
特に両足はボロボロで、ローキックによるダメージが蓄積されて、始まる前から倒れる寸前、さらには新型のつま先を使った前蹴りによる弊害で、利き足の親指は爪がパックリと割れて、骨折していた。

それを知った郷土である長崎の支部長山田政彦は、嫌がる塚本徳臣を無理矢理ねじ伏せて、つま先にばかでかい麻酔注射を打たせたという。
爪と肉の間に差し込むそれは喉から叫び声が抑えられないほどの激痛だったという話だ。

そして迎えた決勝戦、塚本徳臣はステップを使った。
最初から、距離をとり、右に左に動きまわり、鈴木に的を絞らせない。

そして動きながら、かかと落としや変則上段廻し蹴りマッハ蹴りなどを見せながら、シャープな下突きを積み重ねていった。

中盤過ぎほどでさすがに捕まり、ローキックを聞かされ、崩れ落ちそうになりながらも、彼は諦めなかった。
受けに終わったら終わる。
倒されずとも、勝つことができない。

奇跡の逆転勝利

それを悟っていたのだろうか、塚本徳臣はローキックを捌く事はせずに、下突きのカウンターを積み重ねていった。
途中放った胴廻し回転蹴りで足までつり、いよいよ動けなくなりながらも見せ蹴りの中で下突きに賭けて、いよいよの下段廻し蹴りを唯一脛で受けて、そこから充分にタメを利かせた下突きをカウンターで打ち込み、その後下突きの2連発からの超至近距離からの前蹴りで、奇跡の逆転勝利を収めた。

史上初にして、そして唯一の、世界大会決勝での逆転一本勝ちである。

その光景を見ていた長渕剛が、送った詩がある。

それこそが、その時の彼の孤独な戦いを表していると言えるだろう。

彼の空手革命の、鮮烈すぎる幕開けだ。

33連勝という無人の野をいく不敗街道

まぐれと呼ばれたチャンピオン

最初、まぐれと呼ばれていた。

八巻健弐がいない、数見肇がいない、フランシスコフィリオがいない。

最強不在の中、たまたま優勝しただけだ。

そんな失礼極まりない憶測があちこちでなされていた。
それは当人の耳にも聞こえていた。
本人の家族にも聞こえていた。
それが、1種の真実を含むような風潮にさえなっていた。

しかしそれを言葉で反論しても仕方ない事は誰よりも本人が深く痛感していた。

武道家である以上、格闘家である以上、空手家である以上、強さを実践で証明するしかない。

そして、塚本は勝ちまくった。

快進撃

続いて行われた第28回全日本大会は、史上空前とも言える、七試合中五試合の1本勝ち、一試合の技ありと言う圧倒的な強さ。

次に行われた極真空手初の体重別の世界大会――ワールドカップでは、利き腕である左手首を骨折してなお、他の追随を許さない強さを見せつけて優勝。

同年行われた第29回全日本大会も全試合本戦決着での完全無欠の二連覇。

さらには第15回全日本ウェイト制大会も優勝して、史上初のグランドスラム達成。
そして同時に史上二度と現れることがないだろうと思われる、33連勝記録の樹立。

もはや彼は、優勝争いからは除外されていた。

規格外の強さ

優勝して当たり前、後はどれだけの割合で一本勝ちをするか、皆の関心はすでにそこに移っていた。

誰もが認める、世界最強、地上最強の空手家。
勝って当たり前、一本勝ちをしなければ不調、まるで複数のタイトル保持していたときの羽生善治のような扱いだった。

この連勝街道はどこまでも続くのだろう、世界大会は当然のように二連覇、そして三連覇をするのだろう。

きっと誰もがそう、信じるところが当たり前に認識していて、それが変わる瞬間が来ることなど想像さえしていなかった。

まさに、塚本徳臣が極真の帝王となっていた期間だった。

肺炎出場に始まる冬の時代から6秒瞬殺一本勝ち、優勝取消迄の混沌時代

勝って当たり前の重圧

プレッシャーが、勝たなければならない、そういう重圧が限界に来ていたのだろう。
それは、当時のインタビューでもたびたび耳にしていた。

そして、本人が語っていた。
優勝するたび、稽古時間を1時間伸ばす。
それが事実だと――そして真実事実なのだろうから、33連勝していた彼は当時、1日一体どれだけの稽古を積み上げていたのだろうか?

運命の分岐点は、第30回全日本大会。
彼の体は、巨大と言ってよかった。その威圧感たるや、凄まじいとしか言いようがない。

緊急入院、そして全日本・世界大会の二連敗へ

しかしその試合直前、彼は肺炎にかかり、緊急入院していた。
そして試合当日、全く治ってはいなかった。
事実として、1回戦2回戦、なんとかかんとか無理矢理手を出しているといった様子だった。

彼を知る、近しい人々は棄権をすすめた。
当然のことだった。
勝つ勝たないどころか試合など、出来るような体調ではない。

しかし彼は強行出場し、そして3回戦で敗れた。

その翌年に迎えた第7回世界大会、彼の体重はベスト体重を10キロ近く下回っていた。
皆、その変化に驚いていた。
しかし初戦は、秒殺1本勝ち。ほんの少し、大丈夫かと言う雰囲気が漂ったが――迎えた次戦、対戦相手は確かにのちのヨーロッパ大会重量級準優勝の強豪ではあったが、打たれるままに脾臓を打たれ、全く押し返せない展開。
かろうじて勝ちを拾い、次の4回戦では中量級の選手を全く捉えきれず、ダメージを与えられず、体重判定によって敗れる。

異次元の強さ、再び

しかし翌年の全日本ウェイト制大会で復活を印象づける力強い組み手で優勝を果たし、同年の無差別での第32回全日本大会では、異次元の強さを魅せ付けた。

世界大会翌年を思わせる、6試合中4試合の1本勝ち。

そのうえ準々決勝では、のちに世界大会準優勝を果たす体重110キロを誇る逢坂祐一郎から、極真レコードに残る開始わずか6秒という最短記録のマッハ蹴りによる瞬殺を奪う。

まさしく圧倒的な強さを見せつけ、完全復活を世に知らしめた。

――しかし後、その第32回全日本大会の優勝は取り消されることになる。

ドーピング検査で、陽性が出た為だ。事情を知る人によると実際のところそれはドーピングではなく、知り合いから受け取った風邪薬だとかマリファナであったとか様々な話が飛び交っているが、しかしそれにより1年半の出場停止処分となった。

胴廻し回転蹴りの開発、マッハ蹴りの煌めきが、パンチに屈していた泥沼時代

鮮烈な胴廻し回転蹴りの衝撃

驚天動地の処分後に出場した、第34回全日本大会。

誰もが目を疑うような大きなステップからの、超高速の胴廻し回転蹴りを見せつけ、一部の空手関係者から理解されずにあれは空手ではないとさえ囁かれる。それは皮肉ではあるが、ある意味大山倍達と同じ道をたどっているとも言える。結果は準優勝だが、誰もが塚本徳臣の復活を予感した。

世界大会の敗北、そして空手ワールドカップでのマッハ蹴り一閃

しかし満を持して出場した第8回世界大会では、一切の筋力トレーニングを排除して体のしなやかさを求めたと言うその画期的な稽古法による代償とも言えるボディーの弱さを露呈して、後に神童と謳われるヴァレリー・ディミトロフに準々決勝で合わせ1本負けを喫する。

その後徹底したパワーアップに励み、第21回全日本ウェイト制大会の優勝を皮切りに、日本王座奪還をかけて挑んだ第3回世界ウェイト制大会――カラテワールドカップでは、2回戦で時の世界重量級王者となっていたデニスグリゴリエフと激突し、再延長にも及ぶ激闘を演じ、自身の代名詞とも言える下段から変化するマッハ蹴りを側頭部に叩き込み、奇跡の1本勝ちを収めた。

そのまま完全復活と行きたかったが、一本勝ちの代償にその猛烈なパンチで胸骨をへし折られており、続く準決勝で極真史上最強の一角である"重戦車"塚越孝行に止めを刺されて、結果はベスト4で終わる。

あまりにも早く最強を極めてしまったが故に、そして自身の探究心が故に、極端から極端に走り、自分のスタイル、そして求めるべき武道性を見失いながらも、その時々に一瞬のきらめきを見せた、後の完成スタイルの一端を見せていた、1番苦しくも泥臭い時代だと言える。

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