超本格格闘技小説「顎」

2023年10月27日

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前書き

空手歴20年以上の経験を注ぎ込んだ小説

顎と書いて、あぎと、と読みます。

私は武道家の父を持ちます。

物心ついた時より空手を学んできました。
行住坐臥、常に修行の日々を送ってきました。

強くなるにはどうしたらいいのか?
武道とはいったいなんなのか?

考えない日は一日もありませんでした。

それに伴って、試合もこなし、全日本大会にも出場し、そして空手を始めとしたありとあらゆる格闘技の戦いを年間1,000とも2,000ともいえる試合数観戦し、研究を重ねてまいりました。
”空手革命家” 塚本徳臣① ~極真史上最強の五人

実戦の体験を盛り込む

はっきり言いましてこの小説、出てくるキャラすべてに、現実の格闘家のモデルがいます。

そして、空手歴20年以上の経験、知識を存分に活かし、描写などはもろに実体験などをふんだんに盛り込んでいます。

そもこういった格闘技小説を描こうと思い至った最初のきっかけは、自分がバトル漫画が大好きだったことにあるでしょう。ドラゴンボール、幽遊白書、ONE PIECE、NARUTO等々。

さらには夢枕獏などを始めとした様々な戦闘描写を含む小説を読んでいるうちに、実際の武道家である自分ならばかつてない本格格闘技小説が描けるのではないかと筆を取った次第です。

そして現在、格闘技ブームが起こりつつあるこの時、驚くべき現象が起こっていました。

空手・ムエタイの戦いが、那須川天心・武尊という現実とリンクする!

現在の最高峰の二人といっても過言ではない格闘家にしてキックボクサーにして空手家。

那須川天心と武尊。

本当に偶然なのですが、その構図が当小説の主人公である天寺司、橘纏という二人とかなり似通っている境遇があるのです。

これまたたまたまですが、SNSで知り合った格闘技好き仲間に背中を押される形でこういった記事を書いたことも公開に踏み切った一因にあるといえます。
【武尊VS那須川天心】時はきた、いざ戦わばを現役極真空手家が極限妄想検証!

青貴文学にして武道家としての魂の戦い、どうかお収めください。

第壱章「風の少年」

第一話「入学式①」

負けたくない。

 ずっとわたしは、想ってきた。

 負けるのが嫌だった。徒競争から、給食を食べる量とかまで、なんでも。
 とにかく女だからとか、そういう納得いかない理由で差別されるのが、我慢できなかった。

 ずっと男の子たちに反発してきた。殴りあいで顔を腫らして帰ったのも、一度や二度じゃない。
 お母さんにもよく怒られたし、お父さんにも笑われた。
 だけど全然直す気なんてなかった。偉そうにしてる男の子の方が悪いと思ってた。

 だけどそんなわたしも、高校に上がる頃には静かになった。

 私が変わったわけじゃない。
 変わったのは男の子の方で、突っかかってくることがなくなり、こっちは何か言っても反発されることが少なくなった。

 その代わり、妙な猫なで声で話しかけてきて、こちらのご機嫌でもとるようになった。それもわたしには、気に喰わなかった。結局対等に見ていないという意味に、想えて。

 そして現在、わたしは――

「オイ、遥(はるか)ちゃんよォ?」

 こんな風に威張り散らす男たちが、一番許せなかった。

 四月八日。

 堆守(たいもり)高校の2-D教室は、喧騒に包まれていた。
 入学式などの諸行事を終え、生徒たちはお喋りに興じたり、割り当てられた初めての教室を物色したりしている。

 そして教室後方窓際では、席につく一人の生徒を、四人の男子生徒が取り囲んでいた。

 楽しく歓談している様子、ではない。

 囲まれている生徒は、顔の前に教科書を掲げていた。 読んでいると言う様子ではない。
 まるっきり、バリケードのようにそれで顔を覆っているよう。

 そこに囲んでいる生徒の1人が、声をかける。

「オイ、何隠れてんだよ。こっち向けって」

「…………」

 しかしそれに、男子生徒は微動だにしない。答える素振りすら見せない。
 ほとんど目と鼻の先な距離感、聞こえていないと言う無理がある。

 それに声をかけた方の男子生徒は、

「オイ、こっち向けって言ってんだろ? 無視してんじゃねぇ。てめえふざけてんのか……って、聞いてんのかってゴラァッ!!」

 合計五度に及ぶ呼びかけにも反応がないことにイラだち、その教科書を取り上げる。

 露わになったその顔つきは、どこか鋭利な刃物を思わせるものだった。

「…………」

 目つきが鋭く、ただまっすぐに前方だけを見つめており、髪の毛もハリネズミのように尖っている。
 その様は、まるで小動物が敵に対して威嚇をしているかのよう。

「……返せよ。人が勉強してんの、邪魔すんなよ」

 発せられた言葉も重く、生徒はその鋭い目つきで男子生徒を睨み、取り上げられた教科書に手を伸ばす。

「――っと、」

 しかしその教科書は男子生徒の手には戻らず、さら後ろの人物へと手から手に渡ってしまった。
 その人物は教科書を弄びつつ、ニヤニヤと粘着質に笑う。

「あい――――っかわらず! 遥ちゃんは堅いなァ、ダメだよー、そんな事じゃァ? 今は昼休みなんだよ、ひ、る、や、す、み。わかる? そんな時間にお勉強なんて、ダメ、ダメ。モテないよー、そんなんじゃあ」

第二話「入学式②」

 ひと目見ただけで、三歩は後ずさりたくなる濃さ。

顔と髪が脂でべったりとテカり、体もいやらしいほどに大きく、ずんぐりとしている。
 屈み込んでこちらを覗き込んくる姿にはかなりの圧迫感。

 それに男子生徒――神薙遥(かんなぎ はるか)は、キツい双眸をさらに細める。

 この男――大島育伸(おおしま いくのぶ)のせいで、遥の毎日は陰鬱なものとなっていた。
 高校で一緒のクラスになってからずっと、大島はちょくちょく遥にちょっかいをかけてきた。
 休み時間に子分たちと周りを囲み、冗談めかして延々と肩にパンチを入れてきたり、掃除時間に雑巾をしぼっていたところ、上から水滴を浴びせられたり──数え上げればきりがない。

「今さァ、せ――――っかく楽しいネタ仕入れてきて、その話に遥ちゃんも入れてあげよーと思ったのに、なーんでそういう態度とるかなァ?」

 大島はダミ声をあげて、教科書を持っていない方の手で遥の肩を、握った。

「づっ…………!」

 馬鹿でかい四指が肉を挟み、筋肉を圧迫し、骨を軋ませる。
 見た目通りのいやらしいまでの膂力に、遥は冷や汗を流し──しかし歯を、食いしばる。

「……フ、フン。楽しいネタ、ねぇ。なんだよ、それ……まぁ、お前みたいな低俗な人間が考えるネタなんて、たかが知れてる、だろう、け、どっ、な!」

 遥が大島を馬鹿にしたような言葉を一つ吐くたび、その握力は強くなっていく。
 それでも遥は意地だけで最後まで悪態を吐ききった。

「は……ははは、はは……。相変わらず、遥ちゃんは楽しいなー……本当、また同じクラスになれた甲斐があるってもんよ。そんなこと言うから、僕もこういうの持って来たくなっちゃうんだけどね……」

 それに引き攣った笑みを浮かべ、大島は教科書を他の子分に渡し、代わりに"それ"を受け取った。

 瞬間、遥の体から血の気が引いた。

 それは、パっと見は薄いグローブのようだった。
 しかしおかしいのは、受け取った時の様子。

 ジャリ、という音と、揺れる大島のデカイ右手。
 これはただのグローブではない。おそらく中身は重い、砂鉄かなにか――

 ぶん、という風切り音と、同時に揺れる前髪。

 そして目の前に突如現れた、でかい拳。

 大島がグローブをハメた方の手で、遥の顔面目がけてパンチを寸止めしていた。

「……なーんてね。ど――――よ遥ちゃん、砂鉄グローブよー。重さは2キロっつってたかな。ビックリしたー? だいじょーぶよー、こんなので頭殴ったら死んじゃうから、そんな事は冗談でもしないよー」

『ハハハハハハハ』

「────」

 子分と共に大笑いする大島を乾いた瞳で見つめる遥のこめかみから、一筋の汗が流れ落ちる。

 ――今のは、危なかった。
 拳と鼻先との距離は、僅かに1センチ。
 風切り音から察するに、当たっていたらただでは済まなかっただろう。

第三話「砂鉄グローブ」

 ただですら繊細、という文字が辞書にないようなやつだ。
 ちゃんと寸止めですんだことは、幸運だったとしかいいようがない。

「あはあはあは。ビックリしたよねー、遥ちゃん。ごめんねー、こんな事はもう冗談でもしないからねー。だって遥ちゃんは、僕の大事なお友達だから、いなくなったら困るもんねー。だから……」

 
 衝撃が、腹を突き抜けた。

「げ」

 腹の一点が丸くへこみ、その代わりのように背中の一点が丸く膨らんでいる。
 そこを中心として、胃袋が収縮していく。

「ぐっ、ええぇえ……っ!」

 くの字にくず折れる。
 そのまま顔から、机に突っ伏す。痛い。すさまじく、痛い。
 体中の感覚が腹に集結している。胃袋がうねっている。あまりの痛みに、手先が痺れている。ぶわっ、と体中から汗が噴き出す。

「か、かは……」

 息が、息がまともに出来ない。
 痛みという悪魔が、腹の中をめちゃくちゃに暴れまわっている。胃袋がべこんべこんと蠕動する。かっ、と頭が熱くなる。

 そんな時、頭上から笑い声を聞いた。

「あはあはあはあは! だ、だからさ、頭がダメなら、腹に打つのはいいわけじゃん? いくら痛くても死にゃあしないわけだから。いやね、悦弥(えつや)も『これで誰か殴っていいっスか? 殴っていいっスか?』なんて僕に聞くわけよ。で、言ったわけ。『ダメに決まってるだろ? こんなんで人の頭なんて殴ったら死んじゃうだろ? だからボディブローの名手と言われた僕のお手並みを見て、勉強しなさい』ってね。どう、どう? いいパンチだったでしょ、いいパンチだったでしょ!」

 再び大笑いする大島と、その周りの子分たち。
 客観的に見れば残忍な光景だったが、未だお互いをあまり知らない教室の中、それに関わろうという生徒はいない。

 そんな中、

「……もう、我慢できないっ!」

 私は席を立ち、そちらへと駆け寄り――

「遥……!」

「お前らさ、ちょっとやり過ぎじゃね?」

 その前に、立ち塞がる背中があった。

「────」

 途端に、大島たちの笑い声は収まる。

 最初に目についたのが、その長い後ろ髪だった。
 襟足が、肩を越えるところまで伸ばされ、それをゴムでまとめている。一瞬中国人の俳優をイメージする。

 その襟足は、言葉を話す。

「……お前ら冗談でふざけてんだ思って、オレも黙ってたんだけどさ……その、重り入りのグローブつけて腹殴るっつーのは、やりすぎじゃね? あれだぜ、下手したら、内臓破裂とか起こすぜ? そういう事すんの、冗談のはんちゅー超えてんだと思うんだけどさ?」

 長い襟足もそう言って、バツの悪そうに頬をかく。
 どこか優柔不断さをうかがわせる言葉と仕草。

 それに大島は一瞬目を点にして、

「――は。ハハハハハハハ! なに、天寺(あまでら)? お前、遥ちゃん助けようとか、そういう事? なら、勘違いしてもらっちゃァ困るな。遥ちゃんと俺はマブで、今のはちょっとしたおふざけってやつよ。な、遥ちゃん?」

 言って、大島は遥の肩をより強く握り締めた。

「――ぐぅぅ」

 腹の痛みに加えて肩の痛みも増し、さすがに遥も呻き声をあげた。
 それを見て、大島は愉しげに笑う。

 途端、天寺の雰囲気が変わった。

「――痛がってんじゃねーかよ。お前今の、嘘だろ?」

 今までの弱気な態度が消えさり、代わりに一種の冷たさすら宿した言葉、視線が放たれる。
 その姿には、一種の闘気めいたものすら込められていた。

 その変貌に気づき、大島も目を細める。

「――あ? ンなんだよ、さっきから。なにか? 正義の味方気取りか? お前俺を舐めてんのか? 遥ちゃんがいつお前に助けを求めたよ、あァ!?」

「は……な、せ」

第四話「風切り音」

 不意に。

 言い争っている二人の間から、声が聞こえた。

 それに天寺と大島、二人同時に声がした方に目をやると、そこには――腹を抑え、未だに大島に肩を掴まれ、痛みに顔をしかめながら震えている遥が、狂犬のような形相で大島を睨んでいた。

『…………』

「は……な、せ、って……言ったんだ」

 呆然とする二人を尻目に、その口が少しずつ開かれ、掠れた言葉が紡ぎ出されていく。

「……この、油ゴリラが。何が遥ちゃん、だ。な、めんな……よ。人を、女の子扱い、しやがっ、て……お前みたいに、力があれば偉いとか、思ってる……やつが……一番、だいっきらい、なんだ」

 そう吐き捨て、未だに自分の肩を掴んでいる大島の手の甲に――いつの間にか密かに握り締めたシャープペンシルを、突き刺した。

「――――っ!」

 驚きと痛みに目を剥き、手を引っ込めて、大島はもう一方の手で傷口を抑える。抑えた手の下からも血が滴り落ち、大島の顔は苦痛に歪む。

 そのままユラリと幽鬼のように遥は立ち上がり、顔だけで手下たちの方を向く。

「……お前らも、力があるやつに付けば自分たちも偉くなれるとか思ってんだろ。……ざけんなよ。世の中、力があれば偉いわけじゃねーんだよ。それでイバってるやつなんて、ゴミだ。そんな奴らに、俺は屈しないからな」

 そんな遥の危うい迫力に、いつの間にか教室中の人間の目が集まっていた。
 そんな、今や全クラスメイトたちの注目の的となった遥は、天寺の方を向き、俯く。
 震える右手が握りしめたシャープペンシルの芯から、大島の血が一滴、床に零れ落ちた。

「……気に掛けてくれて、ありがとう。それには礼を言うよ。……でも、これは俺の問題だから。まだほとんど話したこともない君に迷惑をかけるわけにはいか」

 ひゅん、という風切り音。

 さっきの大島が振り回した重々しいものとは全く異質な、鋭いもの。
 それに遥は思わず言葉を止めて、顔を上げる。

 すると何故か何を思ったのか目の前の天寺が両の手の平を、上に向けていた。
 まるで何かを受け止めるように──と思っていると、まさにその手の中にジャリッ、という音を立てて、二つの物体が落ちてきた。

 砂鉄入りのグローブだった。

「…………」

 ぽかん、と遥が口を開ける。
 今しがた起こったことの意味が、理解できない。
 今の風切り音はなんだ? なぜ大島のグローブが天寺の手の平に降ってきたのか?

 いったい今のほんの一瞬で、なにが起こったっていうのか?

「お前は、お前の意地を通した」

 天寺が言った。
 その口元はにこやかに、何か楽しいものを見るように緩んでいる。

「だからオレは、お前のプライドを守った」

 そして、何か重たいものが床に倒れる音が響いた。同時に沸き起こる悲鳴。

「お前、カッコいいなー」

 彼は、笑っていた。
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続きはこちらへ! → 第弐章「産声」

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