二十話「突きの連打」
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目次
本編
驚いている暇すらない。
再び突きの連打が始まった。
左右の正拳(せいけん)が、今度は規則正しく乱れ飛んでくる。
それを左右に流し、逸らす。
右拳、左拳、右拳、左拳、右拳、左拳――
再び突きの連打が始まった。
左右の正拳(せいけん)が、今度は規則正しく乱れ飛んでくる。
それを左右に流し、逸らす。
右拳、左拳、右拳、左拳、右拳、左拳――
纏の体が跳ねた。
再び体ごと弾ける、膝蹴りだ。
先ほどと同じように十字ブロックを作り――
衝撃で、身体が軋む。
「ぐ、ぅ……!」
再び突き。
右拳、左拳――
再びの、膝。
両腕で受けるが衝撃で、たたらを踏む。
着地と同時に再び突き。
右拳、左拳、右拳、左拳、右拳、左拳――
纏の高速の左ロー――を、天寺が膝を跳ね上げ、防ぐ。
がつ、という手応え。
再び突き。
右拳、左拳、右
――ここだっ!
突き出された纏の右拳を、左の掌で右側に流す――と同時に道着の袖を掴み、一気に引いた。
纏が勢いあまって、たたらを踏む。
動きの流れのまま天寺は、思い切り体を翻す。
長い髪が、尾のように弧を描き出す。
それを追いかけるように──
天寺の右足のかかとが、纏のこめかみを狙う。
纏の道着の右袖を引っ張った天寺は、そのまま左足を軸に右方向に回転し、後ろ回し蹴りを放ったのだ。
手を放さず、ガードが出来ないようにして、それは反則スレスレの際どいテクニックだった。
「あぁッ!」
身を翻してから着弾まで、十分の一秒。
それは、神がかった速さを見せた。
今まで遥たちに見せてきた蹴りとは、わけが違う。
殺気を伴った蹴りが、そこにはあった。
ごん、という骨が骨を打つ重たい音が、道場内に響き渡った。
見守る道場生たちは、息を呑む。
やった。仕留めた。押されてはいたが、一瞬で――一撃で、ひっくり返した。
さすがはうちの高校生王者、天寺だ――そう確信と、安堵の表情を浮かべていた。
だが次の瞬間、道場生たちの表情が、強張る。
ガードができない状態でまともに食ったと思われていた纏は、よく見れば押さえられた手とは逆――左腕を、顔全体を覆うようにまたがせ、その掌で右こめかみを狙った天寺の踵を、受け止めていた。
あの一瞬で状況を看破し、出来得る対抗手段を講じていたのだ。
しかし、それでも吸収しきれず蹴りの威力に押され、大きく体が傾いてしまっている。
それを逃す天寺ではない。
「ぬあぁ!」
そのままガードごと強引に膝を畳み込み、纏の身体を巻き込んでいく。
纏の体がさらに傾き、右足が浮いた。
床に叩きつけるつもりだ。
――いける!
天寺がそう確信した、次の瞬間。
纏は左足のすべての指で床板をくわえ込み、そのまま片足一本だけで腰を強引に捻じ曲げ、天寺の踵の軌道上から自分の体をズラしてしまった。
唸りを上げて、纏の鼻先で天寺の膝が畳みこまれる。
常人ではありえない、強い腰がなせる力技だった。
「……チッ」
天寺が掴んでいた裾を離し、畳んだ右足を地に着けずそのまま纏の腹にトン、と押すように当て、バックステップして距離をとる。
天寺が激しく肩を上下させ、荒く息を整えている。
その目は憎々しげに相手を――纏を、睨みつけていた。
ハァ、ハァ、と呼吸を整える音が道場に響く。
纏は、しばらく右手でこめかみを押えていた。
その後、その手を顔の前に持っていき、左手も持ち上げて両の手のひらを見たあと、静かに天寺を見た。
そして、やはり静かに元の構えに戻った。
まるで何事もなかったような、それはそんな自然さだった。
纏が再び、天寺に近づいていった。
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