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十八話「ノーガード vs サウスポー」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 でも、出来ればやっぱり試合を見せたかった。

 どうしても組み手では、暗黙の了解でお互いに手心を加えるようになっている。
 それだと自分の良さが出せない。

 そこに、他県の高校生チャンピオンがやってきた。

 ダブルで嬉しかった。
 クラスメイトにいいところを見せられるという期待感、自分と本気でやりあえる相手かもしれないという高揚感。

 そして実はさらに天寺のテンションを上げる要素が、もう一つあった。
 それはこの相手が、初めてこの道場を訪れた人間だということだった。

 この道場に来たばかりの人間は、往々にして天寺の実力を見誤る。
 天寺の体格は身長173センチ、体重57キロ。ゴツゴツした印象は皆無で、襟足は長くゴムで括られていて、構えはノーガード。
 その外見から彼は、いわゆる舐められる事がよくあった。

 それを、一度の手合いで打ち崩す。

 その時の対戦相手の愕然とした表情を見るのが、天寺は好きだった。
 相手の中での自分の評価が、反転する。
 それを実感する時、自分が強いという実感が得られ、天寺はたまらなく快感を覚えた。

 天寺は、笑みを作った。



 纏はうつむき加減で目を細め、どこか虚ろな表情をしていた。

 まるでなにがそんなに面白いのか、と蔑んでいるようでもあった。
 そしてその構えもまた、同じく静かなものだった。

 一般に最も普及している構えに、双手(もろて)の構え、というものがある。
 両拳をアゴの傍に据え、腰を落とす。
 体は相手に向け、30度ほど半身を切る。

 一般にファイティングポーズとも呼ばれている、正面から衝突することに向いているものだ。

 纏の構えは、それに近い。
 だが、アレンジを加えてある。





 拳の握りは軽く、前後左右に動けるように腰の位置は高めで、半身も30度ではなく45度――斜めに近かった。

 機動性に優れた構えだ。
 何が来るかわからない、逆に言えば何が来てもおかしくない。
 悪く言えば半端、よく言えば怖い構えだった。

 その上纏は、サウスポーだった。

 左利きの構え。
 通常大半の人間がそうである右利きでは、左足が前に来る。

 それに対して纏は右足前に構えていた。
 たったそれだけの事だが、こと組み手に関していえばそれだけで、闘いの組み立て方は激変する。

 にやり、と天寺が笑った。

 天寺の構えが変わっているように、纏の構えも通常のものではなかった。
 それが、嬉しい。

 しかもその構えから伝わってくる、冷たい空気。
 天寺は背筋にぞくぞくするものを感じた。

「――シッ」

 短い呼気と共に、天寺は右の前蹴りを放った。
 だが、力はさほど込めていない。牽制の意味を込めた、しなやかな蹴りだ。

 纏はそれを、右の掌(しょう)――手の平を使って、左に跳ね除ける。
 そのまま身を屈め、懐に飛び込もうとする。

 それに合わせるように天寺の体がスッ、と後ろに下がった。
 同時に左足が短い弧を描いて、纏の前足である右足の太腿にぱちん、と軽い音を立てる。

 下段廻し蹴り、一般的にはローキックと呼ばれている、脛で相手の太腿を蹴り込む技だ。

 それに一瞬、纏の動きが止まる。
 その隙に天寺は左、右の順番で足を引き、間合いを開けた。

 再び構図が、元に戻る。

 じっ、と纏が、天寺の顔を覗き込む。
 まるでこちらの様子を窺っているような、そんな視線だ。

 つ、つ、と右足前のまま、静かに間合いを詰めてくる。
 それに合わせ、再び右前蹴りを放とうと天寺が左足に体重をかけ――



 天寺の左足――前足が、外に吹き飛ばされた。
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