二十一話「一方的な責め」

2021年11月7日

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 体が、熱を持っていた。

 気づいた時には、掌も、小手も、肘も、脛も、左内膝も、左頬も、右太腿も、痛みという名の蒸気を吐き出していた。
 ひりひりして、自分の体じゃないみたい。

 心臓がちっとも落ち着かない。
 早鐘を打っているように、絶え間なく鼓動している。

 息が整わない。
 いくら吸っても、肺が貪欲に酸素を求め続ける。

 汗が零れる。
 次から次にぼたぼたと落ち、道場の床に染みを作り、それが水溜りになっていく。

 そこに、自分の顔が写っていた。

 酷い顔だった。
 髪はほつれ、目はギラつき、汗にまみれている。
 いつもの余裕がある涼しい自分は、どこにもいなかった。

 格好悪いなぁ、と笑った。

 でも、こういう自分も嫌いじゃないなぁ、とも思った。

 見ると、纏がこちらに向かって間合いを詰めてきていた。

 ――迎い撃たないと、な。

 そう思い、いつものように手をだらりと垂らし、前後にリズムを刻み、天寺司はにやりと笑った。




 纏の猛攻を、遥は呆けたように見つめていた。

 天寺の舞いとは、全然違う。
 荒々しく、猛々しく、ただ何かに憑かれているようにがむしゃらに相手に襲い掛かる。

 人があんな風に獣のようになれるなんて、考えたこともなかった。

 纏の攻撃を天寺が捌く、腕で止める、脛受けする。

 そんなこと、纏には関係ないようだった。

 捌かれて体が流されようが、振り返って逆の手で殴る。
 腕で止められようが、その上から骨をぶつける。
 脛受けされようが、それごと蹴り折る。

 そんな攻撃だった。

 そんな攻撃だからこそ、サポーター越しとは思えない骨が骨を打つ、聞いている方が耳を塞ぎたくなるような痛々しい音が、鼓膜を揺らした。

 それが、無尽蔵に行われている。
 休みなど一切ない。

 速さと力強さも、一切衰えない。
 その様はまるで人間ではなく、機械のようだった。

 既にその数は、10や20どころではない。
 100発近くは打っているのではないか?

 信じられない。

 人間がこれほど連続して動き続けられるものなのか?
 それも、人を痛めつけるというただそれだけの行為のために。

 天寺の体は、徐々に前のめりになっていた。
 一歩一歩、道場の隅に追い詰められていく。

 天寺はもう、捌いていなかった。
 腕を、アゴと胸の前で十字に組み、前足である左足の膝を上げて、ただただ纏の攻撃を凌ぎ続けていた。

 その上を纏が無造作に叩き、蹴り続ける。
 そんな闘い――いや、一方的な責めだった。

 遥は、自分の喉がからからに渇いていることに気付いた。
 額に、冷たい汗が浮いている。
 ハッ、ハッ、と喘ぎ声をあげている。
 あの天寺の姿はなんだ?
 あれは、あれはまるで――

 天寺の体が、いよいよ道場の壁に迫った。
 さらに纏の攻撃が、容赦なく天寺の体を押しのけていく。

 壁際まで、あと一歩。
 一際強い纏の右拳が、天寺の鳩尾めがけて放たれた。

 やられる……!
 遥が思った、その瞬間。

 今までずっと動かずに固まっていた天寺の体が、跳ねた。
 堅牢に組まれていた両手を開放して、突進したのだ。

 それは、ほんの紙一重のところで纏の拳を――躱し、そのまま纏の右の僅かな隙間を通り抜け、反転して、立ち位置を交換した。
 標的を失った纏の拳が空振りし、一瞬相手を見失う。

 にやり、と天寺が口の端を吊り上げた。
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