第45話「ゼッケン1番」

2020年4月4日

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 しかし、神薙は体重測定の列が終わっても天寺を見つけ出すことは出来なかった。

「…………?」

「ねえ、ねぇ遥?」

「え、なに朱鳥?」

「もういいでしょ? ほら、もう行きましょっ」

「あ、う、うん」

 目を伏せて、その光景を目に入れないようにしている朱鳥に急かされ、遥はその場をあとにした。
 多少の不満はあったが、確かにただでさえ男嫌いの朱鳥にはキツい光景だろう。
 仕方なく、遥は朱鳥とともに自分の席を探し始めた。





 天寺はAブロックのゼッケン1番だった。

 その意味を、控え室の長椅子の上に座って、パンフレットに載っているトーナメント表を睨みつけながら、天寺は胸に噛み締めていた。

 ゼッケン番号1番は、前年度の優勝者の定位置――

 それは、煉仁会空手都大会における常識だった。
 前年度ベスト4の選手はそれぞれのブロックの最初か最後に配置される。
 前回準優勝者の建末元示は、Bブロックの最終番号。
 クラスメイトの海宮慎二は前回4位という実績から、Dブロックの最後の番号にそれぞれ位置されていた。
 それぞれが有力選手扱いとして、1回戦はシードで免除されている。

 しかし今、天寺の目にはそんな二選手よりも他の選手の名前が妖しく輝いていた。
 Cブロックなか程に位置する、ゼッケン番号44。

 橘纏。

 ――ついに来た、と天寺は思った。
 あれから半年、ついにこの大会を迎えたのだ。

 やれるだけのことはやった、とも思っていた。
 今までの練習とは次元が違う、比べられもしないようなの濃厚な練習の中を足掻いてきた。
 これで負けても、後悔はない、と――

 自分の顔を一発はたいた。
 何を自分は、やる前から負けた時のことを考えているのか。
 そんなエネルギーは犬にでも食わせてしまえ。

 ――弱気になっているのか、とも思った。
 どう忘れようとしても、半年前の戦いを思い出してしまう。
 あの痛みは――きっと、一生忘れることは出来ないだろうと思う。

 そして、目の前にあるパンフレットが自分の胸に重い影を落としているのも感じる。
 ゼッケン1番――

 今回会場に詰め掛けた人たちの中には、自分を見に来た人もいるのだろう。
 期待してる人も、いるのだろう。
 それは当然、橘師範も同じだろう。
 その中で、もしあんな風にみっともなく負けたら――

 もう一度、自分の顔をはたいた。
 どうしても、負けるイメージが頭から払拭できなかった。
 それも、酷い負けた方をだ。
 それなら、あんな恥を晒すくらいなら――

 神薙も、来ているのだろうか?
 それを考えたら、学校の連中の顔まで浮かんできた。
 まさか神薙がクラスのやつらに言いふらすとは考えにくいが、どうしても万が一を拭い去れない。

 どうしようもなくなってトイレに向かい、洗面台の中に顔を突っ込んで、蛇口を思い切り捻った。
 冷たい水が頭を冷やしていく。

 オレは、こんなに弱かったのか……。
 去年戦ったときは、楽だった。
 天寺司の名前など、誰も知らないのだ。
 開き直って、楽しむことが出来た。
 負けても、失うものなどなかった。
 地位も名誉も賞賛も――全てを、建末から奪った。

 それが――今年はどうだ。
 オレが奪われる側ではないか。
 なぜオレが、こんな立場にいるのか?
 いつから、こんな重く――

 オレか、と天寺は思う。
 去年偶然に勝ってしまい、そのあと纏と調子に乗り戦ってしまい、神薙を呼んでしまった。

 オレか。
 この状況を作り出したのは、オレか。

 それを思い、天寺は自分の頬を殴りつけた。
 一度口をもごもごと動かし、ぺっ、と血混じりの唾を洗面台の中に吐き出した。

 ならば――と天寺は猛る。
 これが全て自分が原因で、作り上げた状況、結果なら、あとはやることは一つではないか。

 いや――とさらに天寺は自分の考えを訂正する。
 元々、やることなど一つだ。
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