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二十二話「――痛い」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 その顔を見て、遥は息を呑んだ。

 あれだけやられたあとで、こんな表情を、この男は作れるのか――

 事実この立ち位置なら、天寺がずいぶん有利だ。
 あの後ろ回し蹴りも、躱させる事なく直撃させることが出来るかもしれない。

 天寺の体が、後ろ回し蹴りの起動に入る。
 腰を捻り、右手を掲げたその、瞬間。

 めき、と。

 何かが軋んだような音が、した。


 纏の猛攻を凌ぎ、立ち位置を交換させた天寺は、価値を確信していた。

 纏と自分の戦い方は、まるで違う。
 纏が無尽蔵のスタミナと、筋力、体のバネにものをいわせる連打型なら、自分はとことん相手の攻撃を回避し、一瞬の隙に――そう、まるで針を通すような小さな隙間に、正確に、確実に、必殺の一発を送り込む、そういうタイプだ。

 確かに纏の攻撃は、厳しかった。
 今までに経験したことがない強烈なラッシュに晒され、その勢いを殺しきれずに徐々に壁に追い詰められながらも天寺は、狙っていた。

 そして、体が壁につくギリギリのタイミングで、勝負をかけた。
 右の突きに合わせて、ガードを開放してすり抜けるように思い切り、前に出た。

 自信はあった。
 とはいえ、一歩間違えればカウンターになる危険な賭けだった。

 何しろ自分は、打たれ強い方じゃない。
 これだけ堅牢に組んだガードの上からでも打ち続けられるほど強く、硬い拳を、カウンターで鳩尾(みぞおち)にでも貰ったらどういう事になるか――それでも天寺は、前に出た。

 二の腕を掠めた。
 鋭い痛みに、顔が歪んだ。

 しかし、それだけだった。
 天寺は賭けに勝った。
 纏の横を、通過していた。

 向き直り、相手の顔を見る。
 相変わらず表情がない、堅い顔の男だった。

 しかしその背には、壁がある。
 先ほどのように後ろに仰け反る事はできまい。

 直撃しなくても、ダメージは残す。
 そのあと、もう一発に耐えられるか?

 天寺は腰を捻り、右手を振り上げた。



 瞬間、腹が内側から爆発した。





 いきなり目の前が、真っ白になる。
 音も失せて、現実感すら無くなる。

 視覚聴覚嗅覚味覚が消失し、感覚の全てが触覚――"痛覚"に、集中する。

 ――痛い。

 最初は、ただの呟きだった。

 痛い。
 痛い痛い。
 痛い痛い痛い。
 痛い痛い痛いイタイイタイイタイいたいいたいいたいいたたたたたたたたたたた――――――――――――ッ!!

 それはあっという間に膨れ上がり、理解の外へと飛び出した。

「あ"ぁあ、あ"ッ!!」

 凶悪な痛み。
 最狂度の痛み。

 腹の中で、何度も爆発が起こっている。

「ぐあぁあっ!」

 吼える。
 食べ過ぎて腹を壊してトイレで唸ってた時の痛みを何百倍にもしたような、そんな痛み。

「ぐぇえぇっ!」

 見えない。
 何も見えない。
 痛すぎて、目がまったく働かない。

「ぐおぉおおお!」

 吼え続けた。
 景色を写さない真っ白な視界の中で、馬鹿みたいに叫び声を上げ続けた。

「うおぇえええ!」

 力一杯、喉を鳴らす。
 痛みが少しでも紛れるように。
 もちろんそんな事を頭は考えられない。

 ただ体が自動で行った。
 本能で、行った。

「うげえぇえッ!!」

 死ぬ!
 死ぬ!
 死ぬっ!
 死ぬッ!!

 生まれて十七年目にして、初めてそう思った。
 いや、実際は死んだほうがマシと考えたのかもしれない。

 とにかくここがどこで、今がいつで、自分が誰で、相手が誰で、今まで何をしてたのか、それすらまったくわからなくなるくらい、声の限りに叫び続けた――
___________________

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