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六十六話「殺陣」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 それをセコンドから見ていた天寺は、仰天していた。

 纏の動きは今までの比ではないくらいに速く、目まぐるしい。
 リズムも凄い。
 セコンドから見ている自分ですら、これなのだ。
 戦っている夕人には、まるで纏が瞬間移動しているようにすら見えていることだろう。

 ――おそらく、これが本気の纏の動きなのだろう、と天寺は思う。

 息が切れるほど、必死になれる相手。
 それを前にして纏は、今まで見せなかった本気を、見せてくれているのだろう。

 それを自分がやりたかった……と天寺は、少し寂しくも思った。
 纏のライバルでいたかった、という気持ちが、胸の中にはあったのだ。
 それに今、気づくことが出来た。

 だが、構わない。
 今はその力で、奴を――他流派を、倒してくれ。

 叫ぶ。

「いけ、纏ッ!」

 その声に押されるように、左脇に回りこんだ纏が夕人の体に怒濤の如く拳を降らせる。
 胸、腹、脇腹に次々とめり込み、夕人が苦悶の表情を見せ――

 突然纏の頭を掴み、引き込みながらその脇腹に膝蹴りをぶち込んだ。

 それも一発で終わらず、左右で何度も。
 その白い顔を真っ赤に染めて、小さな纏の頭を引き込んで蹴り続けるそれは、まるで何かに憑かれているかのような狂気を感じさせた。

「――や、止め、止めぇ!」

 主審が慌てて間に割って入り、それを止めた。
 厳しい表情で夕人を指差しながら、

「掴んでの攻撃は一発までだ! 最初にルール説明があって、知っているはずだろ? いいね!」

「す、すんません……」

 夕人がうなだれるように返事をした。
 それを確認して主審が拳を振り上げる。

「構えて、続行!」

 双方が構えを取り直す。
 夕人が左足前で左手を伸ばし、纏が右足前で腰を落とす。
 再び仕切り直すように夕人が奥足で右ミドルを放ったが、纏はそれに合わせて、スッと前に出て――刹那。

 夕人のアゴが、跳ね上がった。

 まるで見えない星空でも見上げるために仰け反られたような、その首の角度。
 不思議そうな表情のまま、夕人はゆっくりと仰向けに倒れ込んでいく。
 その体に力は無く、まるで疲れてベッドに倒れ込んでいくかのようだった。

 ぱたん、と静かに夕人の体がマットの上に横たえられる。

 それに合わせて、纏が残心を行う。

「………………――っ!?」

 その感触にすべてを思い出したかのように、夕人の体はすぐに跳ね起きた。
 しかし――

「赤! 上段前蹴り、技有りッ!」

 主審の腕が真横――技ありを示す高さに、振られた。

 そうなのだ。
 それを、審判と観客とセコンドと――天寺は見ていた。

 あの一瞬。

 纏は相手の右中段回し蹴りを間合いを詰めて腕ではなく肩で受け、そのままの勢いで先程の中段前蹴りと同じ要領で、今度は下から突き上げるような上段前蹴りを合わせ、夕人のアゴをはね上げたのだ。
 そのタイミングは、まるであらかじめ決められた殺陣のようにぴったりで、子供と大人ほどの身長差を埋めるほどに腰から天を突くように真っ直ぐと、まるで竹がしなって跳ね上がったかのようなその前蹴りは、本当に美しく。

 それは、鮮やかだった。





 夕人の焦燥は、誰の目からも見て取れた。

 天寺は横目で腕時計を確認した。
 試合開始から、既に2分を越えている。
 残り時間はもう、1分を切っていた。

 この時点で技ありを取られるということは、ほとんど決定的に痛かった。
 実力差があれば別だが、接戦の場合技ありを取り返すのは、容易なことではない。

 当然、判定になったら技ありを取っている方に旗が上がる。
 取った方は、極端な話残り時間逃げ回っても勝つことが出来るのだ。
 それを夕人は理解しているのだ。
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