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三十七話「オレは、なんなんだ?」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 思い出した。

 自分は纏に屈辱的な一本負けを喫して、本気になることにしたのだ。
 師範からも必殺技を教えてもらった。
 自分にはその才能があると言ってもらえた。
 だから、頑張った。
 もう、一生分頑張った。
 強くなれると思った。
 でも――

 天寺は今日、空手の前蹴りを実戦で使ってみた。
 哲侍から伝授をうけて、二ヶ月。
 毎日毎日千本蹴りを必死でやった。
 そろそろ、ものになってると思っていた。

 相手は、纏ではない。
 いつも組み手で手玉にとっている、緑帯の垣根だ。

 身長、体重共に、天寺と遜色ない。
 新技の実験台としては、うってつけの相手と言えた。
 開始早々、間合いを十分に考え放たれた一撃は――

 肘で、粉々に砕け散った。

 激痛が、爪先から脳天までを貫いた。
 思わず苦痛の呻き声を発してしまうところだった。

 その隙をつかれ、間合いを潰された。
 拳の連打が来た。
 問題ない。
 全部捌けるはずだった。

 腕が、鉛のように重かった。
 全然自分の思い通りに動かなかった。

 半分はなんとか捌いたが、半分をまともに貰った。
 纏の攻撃だってクリーンヒットは一つだったのに、緑帯の垣根に半分当てられた。

 だが、大丈夫だと思っていた。
 毎日筋力トレーニングを行っているのだ。
 腹筋だって、逞しくなっているはずだった。

 胃が、大きくうねった。

 まったく耐えられなかった。

 吐いた。
 茶帯の高校生県チャンピオンの天寺が、緑帯の何の実績もない19の男に吐かされてしまった。

「…………」

 体が、震えていた。
 しかしそれは、悪寒のためだけではなかった。

 痛みのためだけではなかった。

 屈辱と悔しさが、天寺を覆い包んでいた。
 恐怖が、すっぽりと囲んでいた。

 ――オレは、頑張ったんだ。
 やれるだけ、やってるんだ。

 なのにこれは、なんだ?
 纏どころか、緑帯に吐かされている。

 足の爪を、指をやられている。
 なんなんだ?
 オレは、なんなんだ?
 オレは――

 強く、なれるのか?





 季節は移ろい、制服は夏服から冬服へと移行していた。

 十月。
 窓から見える木々もその葉を紅に染める時期。

 天寺は一人、机の上で首をひねっていた。

 おかしい。
 理由はわからない。
 だが、いつもと比べて明らかに奇妙なことがあったのだ。

 前蹴りの千本蹴りだ。

「……うーん」

 いつもの自分なら、300本を超えたあたりから極端にペースが落ち、500、700、850、900、950と休憩を必要とするはずだった。
 今までやってきた二ヶ月間、いつもそうだった。

 それが今日。

 一度に800回、ぶっ通しで出来てしまった。
 それも、いつものように途中からペースが落ちてガタガタになることもなく、ちゃんと蹴りとして続けることが出来たのだ。

 気持ちよかった。
 スカッとする爽快感があった。

 だが、原因がわからない。
 何しろ昨日までは出来なかったのが、今日突然出来たのだ。

 それはモヤのように天寺の頭にかかり――

「――オイ、天寺!」

 叫ばれるまで、何度も自分の名を呼ぶ声に気付けなかった。

「…………へ?」

 不思議そうな表情で天寺が顔を上げると、机の前に、腕を組んで仁王立ちしてこちらを見下ろす男がいた。

「『…………へ?』、じゃねぇよ! お前、俺を舐めてんのか?」

 肩の辺りまで伸ばされた、赤い髪。

 右耳と口に2つづつ空いた、丸ピアス。
 ボタンを外されて全開になった学ランと、黒い下地の中心にドクロが描かれたTシャツに、チョーカー。

 クラスメイトにして、同じ道場に通っている空手仲間、海宮慎二(うみみや しんじ)だった。
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