ⅩⅢ:陽動
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目次
本編
二度の奇襲、それに恐怖と屈辱を受け、まとめて魔法として、解放する。
振りかぶったマダスカの掌が、赤く燃える。
「う、うわああああああ」
そのままエミルネルの顔に、叩きつける。
叩き、つけた。
「ああ、あ……え?」
それにマダスカ自身、呆気にとられる。
今まで一度も攻撃が当たらなかったのに、こんな大振りの、しかも手を使った攻撃が当たるなんて――
「ぐ、ぅう……うあっ!」
ガキン、という硬い音。
マダスカの目の前で、いつの間に現れたのかエリューの振るった剣が、マダスカの眉間めがけて伸ばされた突起を、受け止めていた。
「え、あ、え……?」
「ぼ、ぼーっとしてる場合じゃない! う、動け、間合いをはずせっ!」
「あ……う、うんっ!」
痛みに堪えての必死の叫びに、マダスカも正気を取り戻し、距離を開ける。
そして打った箇所――エミルネルの無い顔を、見た。
そこには何の傷も、見受けられなかった。
「う、うそ……」
「二人とも、一旦引け」
後方からのオルビナの声に、エリュー、マダスカは後ろに飛びのいた。
エミルネルからの追撃は、ない。
それに二人とも、人心地ついた。
「ハァ……っ、ぐぅう……」
休んだ途端襲いかかった激痛に、エリューが顔をしかめる。
それにマダスカが振り返り、
「だ、大丈夫エリュー?」
「っ、いや、まだ、大丈夫だ……芯にまでは、届いちゃいねー……」
「芯って……それって、結局相当深いってことじゃ……!」
「それを気に病んでる場合じゃない……!」
エリューは痛みを歯噛みして堪え、目の前のエミルネルを睨みつけた。
現状考えるべきことは、他にあった。
まず第一に、その移動手段。
ほぼ瞬間移動に近い形で、唐突に予測不可能な場所に現れる。
そこに規則性や予備動作は見出せないし、必然対抗手段も講じられない。
さらには攻略手段そのものも、まるで浮かばなかった。
その突起に剣はまったく通じず、さらにはその顔面にもマダスカの掌による炎の一撃はなんの効果も及ぼさなかった。
まず当てることも困難にして、さらには通用する箇所、攻撃があるのかまったくわからない。
「くっ、つ……お、オルビナ?」
「魔族は常時、その全身を魔力で覆っている。通常攻撃などでは一矢報いることすら、不可能だね」
「そ、そうなのですか……?」
マダスカが、それに驚きの声を上げた。
エリューは、口元を吊り上げる。
それで後半の疑問は、氷解する。
そういえば以前のロプロスとの戦いにおいても、桁外れの魔力量で押していたように見受けられた。
となると、
「――なら、俺とマダスカで陽動とフォローに回り、オルビナに決定的な一撃を決めてもらうしか、ないな」
「そ、そうなるな……オルビナさま、どうか御力を……!」
「しかし、あの空間転移はどうする?」
「…………」
オルビナの問いかけに、エリューは押し黙った。
そう。
ロプロス戦のように極大魔法を叩き込むためには、確実に相手の動きを予測し、留める必要がある。
「……そのための、陽動だろう?」
呟き、マダスカが前に出た。
それにエリューは慌てて、
「お、おいマダスカ!」
「作戦は、出来たか?」
それに初めて、エミルネルは声をかけた。
完全な上から目線の鷹揚な響きに、マダスカは口元を吊り上げる。
「……随分と舐めちゃってくれてますね、わたしたちを。どんなことをしようと、勝てないとでも?」
「違うな、間違っている。お前ではない。人間が、だ」
「……何様ですか、あなたたちは」
「それはこちらの台詞だな。お前たち人間こそ、何様のつもりだ」
エミルネルは動かないが、それは逆に近づくマダスカを牽制しているともいえた。
その威圧感に負けないように拳を握りしめ、マダスカは間合いを詰めていく。
「……そんな何様でも、ありません。人間は、一生懸命生きてます。それを虫けらのように無残に殺すだなんて――許されないっ!」
そしてマダスカは、駆けだした。
同時に小声で、魔法を詠唱。
先ほどの魔掌の一撃が通用しなかった以上、小細工は無用。
それにどれほど距離を取ろうとも、瞬間移動で間合いを詰められるなら、意味はない。
先手必勝。
こちらから、突っかけるしかない。
【digina tida sorin mika sansura――】
「なかなか面白い。ならばその正当性、力により証明してみせよ」
そしてその、姿が掻き消える。
「っ! ……何度も何度もォ!」
振り返る。
三度目の正直、そんなのバカだって引っかからないとばかりに――
「バカ! マダスカ、前だ!」
結局は後ろを取られる羽目に、なった。
「くっ――」
「残念だな」
どす、という重い衝撃。
「あ――」
それは、今まで感じたことがないものだった。
硬く尖ったものが、肉体に潜り込んでくる。
それは身体の大事なものを押しのけ、破り、そして――
「ま、マダスカ!? て、てめぇ――――ッ!」
遠くに、エリューの声が聞こえる。
首だけで、振り返る。
エリューは必至の形相で剣を振りかぶり、駆けてきていた。
ほんの微か、嬉しく思う。
こんな感情と欲望丸出しで知性の欠片もない男、嫌いなはずなのに――
「らぁッ!」
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