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Ⅳ:世界の危機

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 どうやってそういう状況になったのか、なんの記憶もなかった。

「どうかね、少しは落ち着いたかね?」

 最初に耳に入ったのが、その言葉だった。

 我に返り、自分がカップを持っていることに気づく。
 少し、温かい。
 中には琥珀色の液体が入っている。
 それがなんなのかが、どうしても思い出せなかった。

「…………」

 なにか言葉を出そうと思ったが、喉自体がまったく動かなかった。
 それに思考も。
 まるで、死んだようだった。

「ふむ、ショック状態からは回復していないようだね。無理もない、あんな状況だったわけだし。しばらくは、ゆっくりとしていればいい」

 わからない。
 意味が、一つも。
 だからぼんやりとしていた。

 自然と、涙があふれてきた。

「……おかー、さん」

 言葉が、溢れてきた。

「……クディさん、ルチアさん、ベーデ婆ちゃん…………ミレナっ!」

 嗚咽が、喉の奥からこみ上げてきた。

「ぅ、あぅ、あ、ぁあ……ッ!」

 蘇る悪夢。

 涙はもう、あまり出てこなかった。
 出し過ぎて、既にもう枯れかけているのだろうか。
 声もあまり出せない。
 ガサガサに、掠れていた。

 もう泣いているだけでは、いられなかった。

「あぅ、ぁ、あ……あの、化け物、は……な、なんなんですか?」

 もう半分縋るような形で、目の前の女性に問いかけた。

 女性は、安楽椅子に足を組んで座っていた。
 以前見たままの、不可解な野暮ったい格好のまま。
 左手に自分が持っているものと同じようなカップを持ち、顔の前に掲げている。
 右手で文庫本のようなものを持ち、それに目を落としていた。

 最初に見たような、眠たそうな目で。

「きみが先ほど遭遇したものについてならば、それは魔物と呼ばれる存在だ」

「魔物……?」

 初めて聞く単語だった。
 動物でも植物でもない。
 もちろん人間でもない。

 そんな生物がいること自体、エリューの想像の斜め上をいく事態だった。

「な、なんですか、それは? そ、それに、なんで俺の首に……俺の、村を……ッ!」

「落ち着きたまえ」





 自分の言葉に事態が整理され、同時に理解、混乱、そして急速沸騰しかけた頭が、女性の言葉一つで抑えられた。
 女性は視線を文庫本に落としたまま、微動だにしていない。
 左手に持つカップをゆっくりと口元に、つけた。

「気持ちはわからないこともない。だが、まずは落ち着くことから始めよう。焦りその他もろもろの感情は、正確な物事の把握、理解を妨げる。先ほども言っただろう? ゆっくりとしたまえ」

 そのあまりに落ち着いた言動に、エリューも言葉の意味を理解する。深呼吸して、

「ハァ、ハァ……わ、わかりました。落ち着きます。落ち着きますから、その……」

「まずはその手に持った紅茶に口をつけたまえ。せっかく淹れたというのに、もったいないだろう?」

「は、はぁ……」

「聞きたいことは、そのあとだ。この世界で起きている、現状もね」

 現状を知ることが出来るという言葉に従って、カップに口をつける。
 甘く微かに苦いそれは、体の芯まで温め、心を落ち着かせてくれた。

「飲んだね。――ではさて、まずは魔物についてから始めようか。魔物とは、自然の化身だ。地球の守り神であり、地球を荒らす人間を退治しに来た存在だ」

 その文章そのものを理解するのに、まずは数秒を要した。

「……自然の化身、ですか?」

「天候、そして波や風といった地球そのものの働きがあるね。それらは人間には左右できず、そしてそれらによって恩恵を受けているものだ」

「は、はい」

「だが逆に、天変地異や疫病といったものもある。それらに抗うすべを持たず、人間は一方的に裁かれる。そして、それの最たるものこそが、魔物だ」

「……天災だ、と?」

「そうだね」

 それにエリューの心は、打ちのめされた。
 まるで信じられないような事態だったが、事実"アレ"に自分は手も出せなかった。

 現れたら諦めるしかない存在。
 今のエリューにはそう思われた。

「な……なんでそんなのが、突然?」

「相当辺境の地だったのだね、きみの村は。元々魔物は、私たちのすぐ傍にいたのだよ」

「…………え?」

 不意の一言に、エリューは言葉を失った。
 こんな絶対的な敵が傍にいただなんて、悪い冗談にしか聞こえない。

「そ、そんなこと……だって、俺は今まで一度だって……」

「見たことがない?」

 その通りだった。

「図星かね? それはそうだろう。彼らはずっと、自然を隠れ蓑に表舞台に出ることはなかった。人間の行いの間違いにも、天変地異を用いて自らが動くことはなかった。なぜだと思う?」

 理由など、一つも思い浮かばなかった。

「人間の国家体制が、歯止めになっていたのだよ。団結し、策略を用い、個々ではありえない強大な力を発揮する。それは他のあらゆる生物を凌駕する力だ。魔物すらも、それだけは警戒し、表立った行動は控えてきた。しかし、人間は考えを改めなかった。

 それゆえ魔物も、王を迎え入れたのだ」

 それにエリューは、目を見開いた。

「お、王……ですか?」

「そうだ」

 すべては淡々とした言葉の中で語られた。
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