ⅩⅣ:核

2020年6月30日

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 大上段からの、一撃。
 それをエミルネルは右腕を回して、受け止めた。

 そしてマダスカに刺していた円錐状の突起が抜かれ、その分胸に当たる場所から生えて、それはエリューへと伸ばされ――

「――やっぱ、そうだな」

 そこでエリューは、ニヤケ顔を作った。

「右腕と、その錐みたいのが左腕、んで目に見えない両脚で瞬間移動してんだな。よくわかったよ、お前がなんでもありのそれこそ化け物じゃなく、俺たちと同じような身体の構造してるって」

「――同じような、だと?」

「違うのかよ?」

 笑う。
 その笑みが、エミルネルは気に喰わなかった。
 たかが人間の分際で、同格に思おうとしているその思い上がり。

 許さん。

「――お前は今すぐ、死ね」

 その怒りに伴うように突起が急速に伸び、吸いこまれるようにエリューの胸に迫り――

「よくやったね、エリュー」



 天から降り注ぐ無数の光の槍が、エミルネルを"串刺しにした"。



「ぎっ? ぐっ、が、あ、あ"、べ、ご、ぎび、ヴァ――ばがげごぎごぐごゴゴゴゴ――――っ!!」

 一本から始まったそれは正確にその胴体の中心を捉え、そのあと二本、三本、五本、十本、二十本――四十九本と、続いた。
 無数のそれに貫かれ、絡め取られ、磔られたエミルネルの姿は、まるで百舌のようだった。

「ぐ、お、があ……あああああ! き、貴様人間がぁああああ!!」

「エミルネルよ、残念だね」

 そして、突起から離れてマダスカを介抱するエリューの脇から、白髪の魔女が現れる。

「お、オルビナっ! マダスカが、マダスカが刺されて……!」

「そこに、横にしたまえ」

「は、はいっ」

 エリューがオルビナの言葉に従い、マダスカを横たえる。
 その左脇からはドクン、ドクン、と心臓が脈打つたびに、じわぁと赤い染みが黒いローブに広がっていた。

 その上に、オルビナは掌を翳す。

 そして初めて、黄の魔法陣のみを展開させる。

【tira ek sola suta tanbina de sona fui kim】

 今までで聞いたもので、最長の文言。
 それに徐々に徐々に、魔法陣から光の粒が降り注いでいく。

 その意味のわからない言葉。
 優しい光に、見覚えがあった。

【staglan dior hep ordina til sora stidacoura tonde】

 心地よいそれに、胸に込み上げてくるものがあった。
 身体全体が、温かさで包まれる。

「……よし、これでいいだろう。応急処置だが、命に別状はない。さて……エリュー?」

「あ、はい。よ、よかったで――」

「なぜきみは、涙を流しているのかね?」

「……え?」

 頬に、手をやる。
 事実そこを、熱いものが流れていた。

 でも、理由がわからない。
 それはエリューはもとより、オルビナも同じようだった。

「……マダスカが死ぬかと思い、安心したかね? 意外ときみは、ナイーブな心を持っているのだね。さて、」

 そしてオルビナは、全身をくまなく磔られたエミルネルに向き直る。
 エミルネルはその死に体でなお、不敵な姿勢を崩していなかった。

「……くくく。ようやくこちらに、御用かな?」

 先ほどまでの激昂も既に収まっており、痛みを感じている様子すらない。
 それにエリューは、ゾッとした。
 49の槍に貫かれてなお、この生き物は絶命しないのか?





「しかし、まだ死なないのかね……まったく生き汚いね、魔族という種族は」

「崇高と言いたまえ。それで、これからどうするつもりかな?」

 不遜な態度に、エリューは少し気圧される。
 ここまでやって倒せないなら、もはやどうすればいいのか見当もつかなかった。

 しかしオルビナは、落ち着いた様子でエミルネルに歩み寄り、その額に当たる位置に、右手を翳した。

「……何をしている、人間」

「いやね、私が調べたところによると魔族は、その身体に『核』と呼ばれる器官を持っているそうで、それを破壊しない限りは切っても張っても死なないとか」

「ほう……それはなかなか、興味深い話だな」

「だろう? そしてそれが魔族の源たるものゆえ、常に微量の魔力を放出しているとか――」

 すると突然、エミルネルの全身を探っていたオルビナの右手が、ほのかに光った。
 それはエミルネルの、人間でいうちょうど右肩に当たる位置。

「――ビンゴ」

 とたん、エミルネルの様子が豹変する。

「ぐあ、あ、あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 なにも無かった顔に、いきなり目、鼻、口、耳が浮かび上がる。
 それはまるで液体コンクリートに水没した形相。
 あまりの醜悪さに、エリューは気圧され、後ろにあとずさる。

「な、なんだよ、これ……」

「びんげぶうヴうヴうううううぅうう」

 まともに形成出来ていないその言葉が、耳に反響する。

「ギザヴァ、それびざばるばあああああ! ぼれにざばれば、ヴぁがしゅのいがりヴぁああああああああああ――」

「うるさいよ」

 そしてそこに、オルビナは純粋な魔力を直に、叩き込んだ。
 核はいともあっさり、消滅した。

「ぎ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 最後に耳に残る猛烈な断末魔を残し、エミルネルは――完全にこの世から、消滅した。

「最期だからとあがくのは、まったく醜い事この上なしだね」

「……お、オルビナ!」

 その最後の言葉を聞き遂げ、エリューはオルビナの元まで走った。

「お、オルビナさま……」

 それに、オルビナの補助魔法により回復したマダスカも続く。
 息も弱く足元もまだ心もとないが、既に命に別状はない様子だった。

 オルビナも振り返り、

「――これだけの犠牲を払ったとはいえ、魔王直属の近衛兵を倒すことが出来たのは、奇跡に近い所業だろう。二人とも、よくやってくれた」

『え…………』

 期せずして訪れた称賛の言葉に、エリューもマダスカも戸惑う。

「い、いやあその……別にそんな俺が出来たことなんてぇ……」
「そ、そんなお褒めの御言葉……もったいなく、それに自身はオルビナさまに助けていただいた身ですし……」

「いや、私こそ二人の力量を見誤っていたと、素直に詫びることにするよ。そこで我々パーティーは、一旦この地を離れ、スパンブルグの聖堂を目指すこととする」

『――え?』

 それに二人、同時に顔を上げ、声を上げる。
 それは双方、聞き覚えのない言葉だったことを表していた。

「スパンブルグには、適職を見つけられる秤がある。訪れることで二人とも、大幅なレベルアップと、目指すべき道を見出すことが出来るだろう。同時私自ら、道々必要な技術も教えるとしよう。これから我々は互いを助け合う、仲間という意識を持っていこうではないか」

「あ、はい……が、頑張ります!」
「身に余る幸せ! このマダスカ、粉骨砕身の気概でオルビナさまの力となれるよう、努力邁進してまいります!」

「では、まず――師を敬う、というところからだが」

『え…………?』

 思いがけない言葉の返しに、エリュー、マダスカ双方言葉を失う。
 それにオルビナは師の顔に戻り、

「大体きみたちはだね、私がどういう想いであの場に縛り付けたか……それを無理やり解いて、あまつさえ追いかけるなど言語道断……聞いているのかね?」

『は、はいっ。すみませんでした……っ!』

 そのあとオルビナの説教は、悠に2時間は続いた。
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