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六十五話「激闘」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 纏の前足――右足に、夕人の左ローがめり込んだ。

 途端、それを堪えて飛び込んだ纏の拳が、夕人の胸に叩き込まれる。
 夕人の太い体が、後ろにズレる。

 夕人の右の膝が、纏のどてっ腹に飛ぶ。
 纏の小さい体が一瞬、宙に浮く。

 しかし纏は構わず、左右の拳を繰り出す。
 一発ごとに、夕人の体が後ずさる。
 それに対抗するように左右の膝を夕人も返した。
 一発ごとに、纏の体が浮き上がる。

 上から、纏が夕人の胸骨に拳を叩き込む。
 下から、夕人が左右の膝を纏の腹に突き刺す。

 荒々しい戦いだった。
 相手の攻撃が当たるたびに僅かに退き、すぐに突っ込み攻撃を繰り返す。

 ――一歩でも引けば、負ける。

 そんな暗黙の了解が、双方でなされているようだった。
 汗が飛び散り、体は赤くなっていき、形相が修羅の様相を帯びていく。

 どん、

 と纏の強烈な拳が一際強く夕人の胸を叩き、後ろに退かせた。
 バランスを崩した夕人の顔が怒りに歪み―― 

 高く舞い上がった。

 得意の飛び膝蹴りだ。
 羽のように両手を前に伸ばし、巨大な悪魔が小柄な纏の影に覆いかぶさっていく。

 瞬間、纏の左足の指すべてが、強烈にマットを掴み込んだ。
 それを軸に、纏の体がまるで扇風機のようにぐるりと右に回り、その巨体の接近を躱した。

 天寺との戦いの時にも見せた、強い腰がなせる動き――技だった。
 その場に風が巻き上がったようにすら見える。
 夕人の体が標的を失い無防備に宙に漂う。
 纏がそれを一瞬見つめ――

 空中にいる夕人の顔面に、右のハイキックを飛ばした。

 ただでさえ14センチの差がある巨躯が、さらに宙高く舞い上がっている標的。
 普通は届かないし、まず蹴ろう――それも顔面を、という発想すら出ない高域。

 だがその右足は、そんな当たり前の常識など無いのかのよう真っ直ぐと、矢のように鋭く、吸い込まれるように急速に迫っていった。
 柔軟性に加え、バネ、筋力共に常人のそれを遥かに凌駕しているという証だった。

 パン、という弾けるような、再びの快音。





 夕人はその蹴りを、顔面ではなく両手で防ぎ――そのまま勢いに押されて、マットの上に背中から叩きつけられた。
 どすん、とマットが衝撃に揺れる。

 纏が、それを見下ろす。
 いつもの無表情の顔の全てが、汗に埋没していた。
 滝のようにあとからあとから流れ、マットの上に滴り落ちている。

 ハァ――ハァ――

 ふと。
 なにか空気が漏れるような音が、天寺の耳に届いた。
 よく見ると、その音に合わせて纏の肩が上下に激しく揺れている。

 ――息を、切らしている。

 いつも涼しい顔で戦っていた。
 天寺が後ろ回しを放った時でさえ、不思議そうな顔をしていただけの纏が。

 あの橘纏が――必死になっていた。

 驚く天寺を尻目に夕人が立ち上がり、構える。
 その目は屈辱に、燃えるように滾っていた。

 奥足で、右ミドルを放った。

 遂に繰り出したその蹴りを、纏の前足――右の前蹴りが、突き放した。
 押すように足の裏全体で腹を押さえる。
 奥足で後ろ手を狙うその右ミドルは、元来のものより圧倒的に到達速度が遅くなってしまっており、直線で予備動作なく出された前蹴りに簡単に合わせられていた。

 距離をとったところで夕人の内股に、纏の左のイン・ローが炸裂した。
 奥足が外に大きく弾かれ、夕人はバランスを崩す。

 体が開いて動きが取れなくなったところに、纏の高速の左ハイが夕人の顔面を襲う。
 パァンッ、という三度目の快音。
 かろうじて、右手でガードしている。夕人もバットで振り回すような右ハイを返すが、蹴った時には既に左脇――前足側の、反撃できない場所に回り込まれていた。

 ――速(は)えぇ!
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