一撃

2020年1月20日

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 そう。

 天寺の中で、あの組み手によって変わったものがあった。
 火のような、闘争心。
 足掻くような、必死さ。
 粘着質な、勝ちへの欲求。

 全て、纏との戦いがもたらした。

「そしてお前の頑張りが、私にも見て取ることが出来た。だから私は、お前にこの蹴りを教えることを決めた。それだけの覚悟を持って、お前は覚えろ。途中で投げ出すな。男なら、やり遂げろ。わかったか!」

「押忍!」

 師範の気持ちが、今わかった。
 それだけの期待を今、天寺は背負う決心がついた。

「一撃だ」

 哲侍は宣言した。

「捌けるなら捌いて構わん、腹には力を入れておけ!」

「押忍!」

 返事をした――それは直後だった。



 バス、と紙袋を叩いたような音がした。



 目の前の哲侍は、構えを取っていない。
 上半身はブレてすらいない。

 だがその右脚は、こちらに向けて真っ直ぐに突き出されており、その足先は――自分の鳩尾に、くるぶしの辺りまで深々とめり込んでいた。

「うぐ」

 天寺は、蛙が車に潰された時のようなくぐもった声を上げた。
 なにか硬く、先端が丸い棒状のもので下から突き上げられた。そんな感覚だった。

「……んぐうぅぅ!」

 膝をつく。
 胃袋が、強烈に収縮している。





 前のめりになって、腹を抱えた。
 暴れ回る胃液がそのまま痛みとなり、腹部を蹂躙している。
 あまりの辛さに、今すぐ転げ回りたい気分になった。 

 ――それは、出来なかった。

 纏との組み手の時に、既にその醜態は晒したのだ。
 あんな真似――二度も出来るかっ!

「…………ッ!!」

 膝をつき、屈んだ体勢で、震える体と痛む腹を手で抑えつけながら、天寺は顔を上げた。
 そして目の前にいる哲侍を、挑むように睨みつける。

 それに応えるように、哲侍は天寺を見つめる。

「通常言われている蹴り方。一旦足を胸の高さくらいまで上げて、足の裏全体で押し込むように蹴るものと違いこの蹴りは、足を上げる動作の最中で膝を畳み込み、そのまま下から弾くように指の付け根である中足を叩き込む。そのため動作が極端に少なく、打撃点が小さい、刺すような蹴り方が可能になる」

 痛み、震える体を抱きながら、天寺は驚嘆していた。

 この蹴りは、凄い……。

 足を上げながらの、最小限の動きでの技の起動。
 それ故、技の起点であるモーションが一切見えない。
 だから気づくことも、ガードすることも非常に難しい。

 しかも正面から体を捻らずに蹴っている。
 それはつまりこの蹴りが、左右での連打が可能であると言うことを示していた。

 連打が可能ならば、元来単発であるはずの他の蹴りと違い、それのみで闘いを組み立てたり、押し込むことが可能となる。
 突きとの打ち合いにも、対抗しうる武器になる。

 威力に関しては、この通り。

「どうだ、空手の前蹴りは?」

「す……すごい、です……っ」

「中段でも、倒せるだろう?」

「お……押忍」

「覚えたいか?」

 ――覚えたい。
 これを覚えれば、対纏戦での切り札になる。

「……お願い、しますっ!」

 哲侍はその応えに、満足そうに口の端を吊り上げる。

 それに天寺は、身構える。
 果たしてこらから、自分どんな奇怪な練習法を聞かされるのか?
 昔の忍者は土に潜ったり、池の上を歩いたりしていたそうだが、そういう類のものが空手にもあるんだろうか?

 そして哲侍は、その練習法を告げた。
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