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四十九話「気合一閃」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「ッづ……!」

 痛みが膝の内側を走り抜け、視線を下げて足を見た。
 前足である左足が、外に大きく弾かれていた。
 普通のローじゃない。これは――

 その視界に、人影が飛び込んできた。

「な――」

 橋口の目が驚愕に見開かれる。
 一瞬で、一足で、纏が間合いを潰し、橋口の懐に飛び込んできていたのだ。

 ……野郎!
 膝を出そうと足に力を――

 連打が来た。
 高い打点の拳が、胸目がけて嵐のように叩き込まれる。

 体が、太鼓のように激しく振動する。

「――ぐ、お、お、お!」

 まるで石のように、サポーターをつけてないんじゃないかと疑いたくなるほど硬い拳だ。
 それが筋肉を過ぎ、胸骨にぶつかる。
 痛む、軋む。
 やつの、狙い、は……

 ――折る、つもりだ。

「――ヅッ!」

 慌てて両手を胸の前に下げ、十字に組んでガードした。
 その上から拳が一発叩き込まれ、その腕までもが痛んだ。

 ――瞬間、奴の姿が掻き消えた。

 纏は、橋口から見て右方向に体を沈み込ませるという、ボクシングでいうダッキングという技術を使ったのだ。
 そのまま左拳を後方に引き、一気に――

 めり、と肝臓がある右脇腹に叩き込んだ。
 ボクシングでいう、レバーブローだ。

「ぎっ――!」

 橋口が呻き声を上げて顔を出した――刹那。

 ぱん、

 という、何かが弾けたかのような音を立て、纏の右足の甲が橋口の左頬を突き抜けていった。

 ――――なにが……?
 橋口は、最後まで何が起こったのかわからなかった。





『只今の試合は上段廻し蹴りにより、ゼッケン44番、橘纏選手の一本勝ちであります』

 会場にアナウンスが流れる。
 それを、天寺は目を見開いて聞いていた。

 ――――纏……。

 強烈な映像だった。
 前足を吹き飛ばすイン・ロー、胸に拳を畳み掛けるラッシュ、鉤突き――フック一発で首を押し出し、矢のようなハイキックで意識をはじき出す。
 今までも使ったコンビネーションは、その凶暴なパワーを増すことにより、さらにその威力を高めているように見えた。

 だが、それ以上に体の動きが変わっていたのが天寺の注意を引いた。
 以前のような強引な攻撃とは、違っていた。

 体の動きが、速くなっていた。

 蹴りや突きは今までも格段に速かった。
 それは受けた身からしても言い切ることができた。
 だが、体の動き――移動スピードは、それほど特筆すべきものではなかったはず。
 それが、今の動きは――

 相手の橋口は、恐らく纏の姿を何度か見失ったはずだ。
 急激に、緩急をつけて動いた。
 そこから繰り出される攻撃は相手の意表をつき、効果を二倍にも三倍にもしていた。

 あれを、自分がもらったら……それを考えると、天寺の体は白熱していった。

 纏もまた、強くなっていた。



 宴は、2回戦第1試合を迎えていた。
 アナウンスが流れる。

『ゼッケン1番、天寺司』

「しゃあっ!」

 気合一閃、天寺は壇上に飛び上がった。

 やる気が、体中で火を噴いていた。
 体が熱を持って膨れ上がり、今にも弾け飛びそうだった。
 纏の試合から自分の試合まで、二十分。

 モチベーションは、限界まで高まった。
 あとは、放出するだけだ。
 自分の熱で、火傷しそうなくらいだった。

 対戦相手が上がってくる。
 睨みつける。

 力士のような男だった。
 身長は自分と大体同じ――172、3といったところ。

 しかし、横幅が違う。
 腕は丸太のように丸く、足は自分の胴くらいありそうだった。
 体重だけなら、建末より上のように思えた。
 100キロ近くあるかもしれない。

 あの丸い腕で胸や腹を叩かれたら、体が浮きそうだ。
 あの胴ほどある足でローを貰ったら、足がもげそうだ。

 その恐怖が、頭を痺れさせる。
 その緊張感が、体を脈立たせる。

 ――ハァ――ハァ――ハァ――ハァ

 跳ねた。
 手をだらりと下げたまま、何度も真上に高く跳び上がった。
 それはステップというより、お気に入りの玩具の前で地団太を踏んでいる子供のようだった。

 たまらない、我慢できない、奴が――纏が見てるんだ!
 早く。
 早く、早く。早く、早く、早く。
 早く早く早く早く早く早く早く早く――――――――!

「始め!」

 太鼓が鳴った。
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