四十五話「友人の戦場」

2021年11月7日

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目次

本編

 だが、この前の教室での、慎二との戦い。

 倒した後の、達成感という言葉では足りない、目を閉じ、唇を噛み締めた、感極まった堪らない顔。
 彼はあの生気を吐き出すような無茶な練習から、何かを手に入れたのだ。
 彼の努力は、実ったのだろう――

「あー、暑かった……て、なに浸ってんのよ遥?」

 その言葉に、不意に遥は現実に戻される。

「……いや、浸ってるっていうか」

「さっさと先行くわよ」

「はいはい」

 三日前。

 二時限目の、休み時間。
 天寺は照れたような顔をして、遥の席にやってきた。

 そして訝しがる遥に、天寺は以前に見せた仕草――ばつが悪そうに苦笑いしながら頬をかき、

「あ、あのさ、その……今度さ、その……自分ごとなんだけど、あの……」

「なに?」

「いや……あのさ、今度さ、その……なに?」

「だから、なんなんだよ?」

 遥はそのハッキリしない態度に、いい加減イライラしていた。
 それに天寺も息を吸って覚悟を決め、

「こ……んど、さ、その……大会が、あんだ。だから、よ、よかったらさ……見に来ねぇ?」

「…………」

 一瞬遥は、その意図を掴みかねた。
 その隙をつくように、天寺は捲くし立てる。

「いや、あのさ、この前道場に来てくれた時は、かっこ悪いとこ見せちゃったじゃん? でもさ、オレ、普段はあんなんじゃないんだ。そこそこは強いし、倒されたのだってあの時が初めてで。あ、こう言うといい訳くさいけど、オレもここんとこオレなりに頑張ってたんだ。知らなかったとは思うけど。だから、もし時間があったら見に来てくんないかなぁ……とか思ったり思わなかったり」

 最後の言葉にはどっちだよ、と突っ込みを入れたくなったが、遥は苦笑を作った。
 ――本当に彼はこう、人に対して臆病なのだな。愛すべき愛嬌を持っているし、あれだけ強いのに、もったいない。

 そして不思議そうな顔をしている天寺に、

「喜んで応援に行かせてもらうよ」

「なんの話?」

 その時朱鳥が話に参加したことに、天寺は複雑な表情を作っていた。





 時は現在に戻る。

 会場では選手たちの体重測定が行われていた。
 空手に限らず打撃系格闘技では、体重が大きなウェイトを占める。
 よって事前申告と実際計った体重に10キロ以上の差があった場合注意勧告、酷い場合は失格処分にされる。

 もう一つ、それはルールに関わる問題。

 練仁会空手では本戦3分間を闘い、その間K.O――空手では一本が決まればその時点終わりだが、そうでなけえば審判5人による旗判定が行われる。
 基本的に優勢だと思われる側に旗を上げてもらい、3本以上に達した場合、そちらの勝利。

 その形式は技あり・一本、反則が行われた場合も同様だ。
 選手のダメージが、技あり――ボクシングでいうダウンだと思われる場合旗を真横。
 その技ありが二つ、もしくは状態が危険な場合は旗を真上に掲げて、一本。

 反則の場合は旗を上げるのではなく振ってもらい、やはり回数により注意、減点、反則負けとペナルティは重くなる。

 本戦で決着がつかなかった場合は二分間の延長を2回、それでも引き分けの場合、そこで体重判定が行われる。
 10キロ以上の差で、軽い側の勝ちとなる。
 それでもなお決着つかずなら、最終延長になる。

 選手達が上半身裸で、体重計に乗っていく。
 それを見て神薙は、力士の部屋入りのテレビ番組を思い出していた。

 そこで遥は、天寺を目で探していた。
 一言、声を掛けたかった。
 今どんな気持ちでいるのか、聞いてみたかった。
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