脅し

2019年11月22日

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 それをしっかりと確認してから、天寺はゆっくりとその瞼を開いた。

 静かに、自然に、それはまるで仏が悟りを開くときのそれのようだった。

 上体を起こし、あぐらをかく。そしておもむろに、頭の後ろに隠しておいた缶ジュースを手前に持っていき、一気に喉を鳴らして飲み干した。
 口から溢れた黄色い液体が、コンクリートの上に零れる。
 そして、空になった缶を再び胸の前へ降ろしてから、立ち上がり、缶を持っていないほうの手をポケットに入れて、

「――なーんのつもりだろうね、"彼"は」

 缶を宙に放り、残りの手もポケットにしまった。



 刹那――空き缶が視界から、掻き消える。



 それに続くようにガコン、という金属同士が当たる硬い音がして、さらにそれがガンガンと続いて、尾を引くように消えていった。

 それをのんびりと聞いてから、

「ま、いっか」

 天寺は自分の教室に向けて歩き出した。








 朱鳥には、昔からよくハラハラさせられていた。

 子供の頃からヤンチャで、それこそ色んな事件を巻き起こしてきたが、あんな露骨な尾行を提案された時は正直戸惑った。
 最初こそ止めようかとも考えたが、いちど決めたら絶対折れないのが朱鳥。
 仕方なく、せめて何か無茶なことだけはしないように同行するというところで落ち着いた。

 しかし結果的には、なにも起こらなかった。
 それには多少なりと、遥も拍子抜けしていた。

 実際考察する位には、気になってはいた。
 あの時天寺が繰り出したと思われるものは、ありえないとは思うが蹴ったのか、何かものを投げたのか、それともまさかの超能力か?

 あの瞬間、あの大柄な大島を倒したのは――

「とっ、」

 そこで不意に、遥は誰かの体にぶつかった。
 ろくに前を見ずに考え事をしながら歩いていたせいだと反省し、

「あ、すいません。ちょっと考え事してて――」

 謝ろうとしたその言葉は、そこで止まり、体は、固まった。

「……よぅ、はーるかちゃん」

 そこにいたのは、ニヤニヤと笑いながら脇に二人の子分を従え、アゴに包帯を巻いた、大島だったから。

「…………」

 一瞬、遥の息が詰まる。
 ゴクリ、とつばを飲み込む。

 大島は午前中、学校を休んでいた。
 普段からその無駄にでかい体とチンピラじみた子分たちで威張り散らしてきたくせに、天寺にあっさりやられたものだから、体裁がつかなくなったのだろうと遥は軽く考えていたのだ、が――

「元気してたかァ? ……してたよなァ。何しろ、この俺にシャーペンぶっ刺してのうのうと学校来てんだからよォ!」

「…………っ」

 その剣幕に遥はたじろき、再度ごくりと唾を飲み込む。

 視線を下げると、アゴと同様に左手にも厚めに包帯が巻かれている。

「ンでよォ!?」

 ぎょろり、と大島の目が釣りあがり、包帯が巻かれたアゴをしゃくりあげる。
 その様子に、いつものような余裕はない。
 直接的に、脅しにかかっている。

「その時の落としまえ! ここで今、つけてや――」

「あんたって、ホンっと最低よね」

 別方向からの声。

 そちらに大島、さらには遥が目を向けると――腕組みして、睨みをきかせ仁王立ちする朱鳥の姿があった。

「あ、朱鳥……なんで?」

「なんで? じゃないわよ。まさか気づいてないとでも思ってたの? 遥がわたしのあと、ちゃんとついてきてないの」

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