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三十八話「急襲」

2021年11月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 天寺は物思いに耽っていたが、現在教室では自習が行われていた。
 担当教諭が病気のため、前と後ろの席でグループに分かれ、それぞれで作業が行われていたのだ。

 それで、前列のグループ長になった慎二(しんじ)が、同じグループになった一番前の席の天寺に意見を求めたところとぼけた反応をされたので、猛っているのだ。

「お前、やる気あんのかよ!?」

 慎二は叫んだが、天寺は大きなお世話だと思った。
 そんなアウトローな格好をして普段はやる気ないくせに、こういうグループ作業だけはやる気を出す。

 そういうやつに言われたくない台詞だと、天寺は目を細めた。

「……ま、ほどほどに、かな?」

 顔を傾け右手で後ろ髪をいじりながら、やる気なさげに答えた。
 その態度がまたも気に食わなかったのだろう、慎二はさらに噛みつく。

「お前さ……そんなんじゃ、社会に出てから苦労するぜ? いっつもやる気なくて、友達も少ない。そんなんで、生きてて楽しいか?」

 なぁ、と周りの仲間に同意を求める。
 すると一斉に頷いたり笑ったりと、様々な賛同が返ってきた。

 この男、見た目も言動もこんななのに、友達は多い。
 その、ちょっとレールから外れている格好や口調が、同世代の男子にはかっこよく見えるのだろう。
 それにその気安い性格も幸いしているといえた。

 だがその口の悪さに、天寺はたまに閉口していた。
 特に今回は、友達の少なさを言われた。

 器用で目立ちたがり屋のクセに、友達作りはへたくそ。
 それゆえ、天寺はそのことを言われるのを好まない。だから、

「……っさいな」

 つい本音が、口をついて出た――途端、



 強烈なミドルキックが、天寺の側頭部を襲った。





 ガシャン、という金属音が教室に響く。

 天寺が、とっさに自分の机を持ち上げて、その天板で慎二のハイキック――高さ的にはミドルキックを、防いだ音だった。
 それに天寺の口元が引きつり、汗が一筋こめかみ辺りを流れ落ちる。

「……正気かよ」

 今は、授業中なのだ。

 ただでさえ喧嘩など教室で行うものではないのに――そもそも喧嘩を学校で行うものではないのだが、いくら自習中とはいえ生徒もいて他の静かな教室には先生もいるだろうこの状況で仕掛けてくるなんて、何を考えているのか?

「……てめぇ、やっぱ舐めてんだろ」

 慎二の声は冷たく、静かで、それは本気の色をしていた。
 どうやら、マジに怒らせてしまったらしい。

 ――しかし、先に人が嫌がることを言ってきたのは、そちらなのだ。
 それで怒るとは、逆ギレもいいところだ。
 そんな権利が、お前にあるのか?

 スッ、と天寺は静かに立ち上がり、眉を寄せて慎二を睨む。
 下げられた両の拳を、静かに握る。

 慎二の怒りと天寺の苛つきが、その場の空気を緊張させていく。
 周りで話し合っていた生徒たちがそれに気づき、黙り込み、息を呑み見つめる。

 戦いの"場"が、そこに出来ていき――

 くるっ、と慎二は身を翻した。そのままスタスタと天寺に背を向け、歩を進めていく。
 それにならうように天寺も教室中央から離れる。
 それを見て安堵したクラスメイトたちはため息を吐き、再び元の喧騒へと戻っていき――

 慎二が投げた椅子が天寺の脇を通過し、教室後方のロッカーに激突した。

 それで、談笑していたクラスメイトたちは、再び振り返った。
 そして――教室後方の机とロッカーの間のスペースで、一足分の間合いを取って睨みあってる二人を見て、全員に緊張が走った。



 その時天寺は、次の行動を考えあぐねていた。

 もう、やめることはできない。
 相手はすっかりやる気満々の、臨戦態勢に入っている。

 目はギラギラと光り、両の拳はアゴの前でしっかりと構えられ、おまけに上着は既に脱ぎ捨てられて黒いTシャツ一枚の姿で腰を落としている。

 空手の構えではない。
 喧嘩の構えだ。
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