三十五話「修行」
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目次
本編
今日の弁当は、うまかった。
特に唐揚げ。
あれはいいと思う。
鳥肉は筋肉にいいと、どこかで聞いたことがある気がするから。
それにウチの唐揚げは脂ぎってなくて、塩が絶妙な加減でかけられてるから、下手な店で食うより上手い。
こう、噛むとじゅわっ、と肉汁が出て、口の中で迸る。
この時が、もっとも母親に感謝するときだよなー。
あれはいいと思う。
鳥肉は筋肉にいいと、どこかで聞いたことがある気がするから。
それにウチの唐揚げは脂ぎってなくて、塩が絶妙な加減でかけられてるから、下手な店で食うより上手い。
こう、噛むとじゅわっ、と肉汁が出て、口の中で迸る。
この時が、もっとも母親に感謝するときだよなー。
最近日本では逆に料理が出来ない母親が増えてるらしいけど、それってどうなんだろうなって思う。
確かに逆に男が料理できるパターンが増えて多種多様になってきてるのはいいとは思うけど、やっぱ女性が恋人のために一生懸命料理してる姿は個人的にぐっ、とくる。
なんか、こう……健気? っていうか好きだなァ、オレは。
だから消えないで欲しいなァ、女性の料理。
男はお袋の味で育
かん、と乾いた音が聞こえた。
それが呼び水になり、ぼやけていた感覚が戻ってくる。
視覚。
足元に広がるのは、真っ白なコンクリートパネル。
触覚。
暖かい陽射しに、髪がなびく程度の風。
聴覚。
足元から響いてくる、何百もの生徒の話し声。
そして、思い出した。
今は昼休みで、場所は屋上で、自分は師範から教えられた空手の前蹴り習得のための練習をやっている最中だったのだ。
「――――っ」
正直、きつい。
途中、何度も意識が途切れた。
こういうのが限界を超えた――いや、限界を求める修行っていうんだろうか?
これだけじゃなく、当然道場での稽古もやっている。
家に帰ってからの筋力トレーニングも師範に言われた通り続けてるし、学校だってさぼってない。
そして師範の言葉に従って、週に一回はちゃんと休息を取るようにした。
全然足りない。
常に脱力感が体を襲い、筋肉痛がやる気を削ぎ落とす。
今だって本音をいえば今すぐ寝そべって、そのまま放課後まで惰眠を貪りたいぐらいだった。
――でも、強くなるためなら。
纏に勝つ、ためなら!
天寺は足元の表を覗き込み、練習を続行した。
「天寺……」
それを以前と同じように壁に脚立をかけ、朱鳥は見つめていた。
天寺は午前の授業中、ずっと眠っていた。
これにはこっぴどく注意する先生もいたし、教科書で頭をはたかれたりもしていた。
それでも天寺は微動だにせず、その目の下には濃いくまが見て取れ、顔色も青く、額には冷や汗浮かんでいた。
その疲労の原因が気になり、朱鳥は再びこの場所を訪れていたのだ。
天寺は、蹴っていた。
「せいっ……せい……っ!」
それは足を下から上に突き上げる、最もシンプルなものだった。
だがそのスピード、美しさから、まるで一回ごとに長く豪奢な弓の弦がたっぷりと引かれ、一気に解き放たれるようなイメージを伴った。
さすがに天寺だと思った。
しかし今、それはまるでピエロの戯れのようになってしまっていた。
「ハァ……っ! ァ……っ」
腰が引け、軸足が曲がり、あまつさえ蹴り足まで曲がりそれは腹の高さまでしか上がらず、スピードもビニールボールで行われるバレーのやり取りよりも遅くなってしまっている。
そして朱鳥が口元で、カウントを"続行"する。
朱鳥はすべての練習の記録をつけるつもりで、数も正確にかぞえていたのだ。
「813……814……815……」
朱鳥は知らなかったが、通常道場で行う稽古で一つの技にかける回数は、少なくて10回、多くても30回ほどだ。
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