二十四話「2年前の事件」

2020年4月26日

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 遥は、あれからずっと上の空だった。

 授業中も、移動教室中も、お弁当食べてる時も、家に帰ってからテレビ見ててもご飯食べてても、漫画読んでるっぽい時ですら。

「じゃあ俺、自分の部屋戻るから」

 そういって、遥はリビングをあとにした。
 それに両親を笑顔で見送る。

 だけど朱鳥は、眉をひそめていた。

 確かに遥は元からおとなしいタイプではある。
 両親も遥のほうが手がかからなくていいわー、あんたたち性別間違えて生まれてきたんじゃないのとか言ってるし。
 余計なお世話だ。

 だけどそれにしても、最近の遥は大人しすぎる。
 ほぼ、無言に近い。

 ただ登校して、ただ学校生活を終えて、ご飯食べて、くつろいで、部屋に戻っていく。
 誰も気づかないかもしれないけど、双子の自分は騙せない。

 朱鳥は、こっそりと遥のあとについて、階段を上っていった。
 別に自分の家だからそんなことする必要ないのだが、こういうことはノリが大事だと考えていた。

 自分の部屋の前まで来て、ガラッと音を立てて扉を開け、そのまま音を立てて閉める。
 中に入ることはなく。

「――――」

 ここからが、問題だった。
 朱鳥はさらに足音を忍ばせて、遥の部屋を目指した。

 だったらそもそも階段上る音忍ばせる意味なかったんじゃないかいうツッコミどころだが、朱鳥は細かいところが気にならないタチだった。

 遥の部屋の前まで来て、ほんの小指一本分襖を開ける。
 神薙家は全室和室。

 遥が、勉強机に向き合っていた。





「……まっじめ」

 ボソっ、とつぶやく。
 確か遥は宿題は夕飯前に終わらせるタイプだったから、だとすればあれは予習か復習。

 よくやると思う。
 朱鳥は基本的に宿題以外の勉強は家ではしない主義だった。
 テスト前とかは図書館でそこそこやったりはするけど。

「――――」

 遥はカリカリとノートにペンを走らせ続ける。
 それを見続けて、朱鳥は既視感に襲われていた。

 以前の屋上の、天寺。
 あの時は5分が限界だった。

 スマホを取り出す。
 今回も5分してなんもなければ、自分の気のせいだと――

「ぐっ」

 5分どころじゃなかった。
 実質5秒だった。

 うめき声。

「!?」

 朱鳥は驚き、目をむいて襖の隙間に顔をくっつける。

 遥は、わずかに前かがみになっていた。
 しかしお腹を抑えたりなど、そういうところは見受けられない。
 どこか痛いといったことではないようだ。

 だとしたら、いったいなにが――

「くっ……ッ、あ……あははは」

 耳を疑った。

 ごく小さな声ではあるが――あの遥が、笑っている?

「うそ……」

 朱鳥は思わずつぶやく。
 表情の変化が乏しく、ましてや声に出して笑う遥なんて、今まで見たことが──

「あ、いや……」

 あった。

 それはもう、2年も前の出来事。
 確かに以前からおとなしかった遥だが、それが今まで見た中で1番生き生きと輝いていた、そんな時代の遥。

 それが――以前よりもっともっとおとなしく、今みたいな遥になってしまう、きっかけとなった事件。

「…………ッ!」

 思わず朱鳥は、唇を噛んでいた。
 確かに遥が笑っていると言うのは嬉しい出来事なのだけど――だけどあの事件を思い出すと、歯噛みせずにいられなかった。

 そしてそれは同時に、自分がこれほど男を嫌悪する、きっかけにもなった事件。
 力そのものを、憎むようになった理由。

「はは、はははは……」

 その不気味な音にハッとして、朱鳥は顔を上げる。
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