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六十三話「決勝戦」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

『決勝戦を始めます』

 会場にアナウンスが響き渡る。
 この長い宴も、ついに最後の時がきたのだ。
 言うならば、ファイヤーストームのような瞬間が。

 会場は、大きくうねっていた。
 前代未聞の事態が、二つも起きていたからだ。

 一つが、他流派の決勝進出。
 一つが、試合開始直前の、慎二の準決勝戦の棄権。
 もう一つ言うなら、決勝の選手が両雄とも初出場というのも、過去に例を見ない事態だった。

 飛び込んでからの徹底した連打と、中間距離の一撃必殺の飛び道具を持つ、橘纏。
 中間距離でその長い足を使って相手を縛り付け、接近してからの飛び膝で仕留める、蓮田夕人。

 お互い万能型でありながら、そのスタイルはまさに真逆といえた。
 どんな戦いが行われるか、誰も想像がつかなかった。

 さらに両者の体格差も特筆すべきものがあった。

 橘纏は身長167センチ、体重57キロ。
 対する蓮田夕人の身長は181センチ、体重は74キロ。

 身長は、纏の方が14センチも低い。
 体重も、20キロ近くの差がある。
 だが、今までも纏は対格差を跳ね返す試合をいくつも見せてきた。

 いずれにせよ、本日の宴を締めくくるに相応しい試合であることは、間違いないと思っていた。
 最後の炎を、みな期待していた。

 両選手がその舞台に上がった。





 纏の側のセコンドには、天寺の姿があった。

 そのアゴには何重にも包帯が巻かれている。
 右腕は三角巾で首から吊るされ、左手で氷のうが押し当てられている。
 外からは見えないが、左足の太腿と右脇はテーピングでしっかりと固定されており、冷却湿布が貼られていた。

 満身創痍だ。
 だが幸いなことに、骨折などの重傷な箇所はなかった。
 すべて、全治2週間以内で治るということだった。
 左腕などは、折れたりヒビが入るギリギリのラインで持ちこたえてくれたらしい。

 すべては、ここ7ヶ月に及ぶ筋力トレーニングのたまものだった。
 それでも本当は、医務室で安静にしていなければならなかった。
 だが、この試合を見ないわけにはいかない。

 天寺は声を張り上げた。



 神薙は自分の席に戻っていた。

 天寺にはセコンドにつくように勧められたが、それを丁重に断ってここにいる。
 遠慮したのだ。
 自分は空手側の人間ではない。

 天寺なら同じクラスメイトということで言い訳もたつが、纏さんとの直接の繋がりはない。
 それでセコンドにつくのはさすがに腰が引けた。
 それでも、精一杯応援するつもりはある。

 二人の姿を認め、神薙は声を張り上げた。



 朱鳥は、その神薙の隣で、うつむき加減に座っていた。
 拳を握りしめ、なにかに耐えているような様子だった。
 しかしそれも隣の遥が叫んだと同時に、視線を壇上へと向けることになった。



 纏は、少なからず動揺していた。

 自分の目的は、この大会の優勝。
 そして、その先にある"本当の"目的に向いていた筈だった。
 そのための、布石。
 この大会は、それだけの筈だった。

 だが、その胸中に芽生えている感情は、それだけではなかった。

 勝ちたい。

 目の前の敵に、勝ちたい。
 それは、その先のためなどという、そういう計算上の感情ではなかった。

『頼んだ』

『ま・か・せ・た・ぜ?』

 ――人のために。

 そんなことを、思ったことはなかった筈だ。
 他人には、あまり興味がなかった筈だ。
 それは、決めたことだった。
 決められた、ことだった。

 だが――

「オラァ、纏。気合入れてけよ! 他流派なんざ、ぶっ飛ばしてやれや――――っ!!」

「纏さん、頑張ってください! 天寺の仇、とってください!」

 二つの声援が飛んできた。
 それは胸に響いた。
 胸が、熱くなるのを感じた。

「始めぇ!」

 だからなのか、開始と同時に左足が弾け跳ぶように動いた。
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