3分一本勝負

2019年11月13日

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 3分一本勝負。
 どちらの勝ち、という判定もなし。
 優劣を決めることが目的ではなく、あくまで橘纏の紹介及びお披露目という意味合いが強い。

 しかし実際のところ。

 この二人は、ただの高校生ではない。
 この二人は、ここ東京と遠く長崎の、それぞれの都と県のチャンピオン。

 それゆえ、これはいわば、面子の張り合いという意味合いも兼ねているのが誰もが了承している事実だった。

 見つめる視線は熱く、握る手の平は汗ばみ、二人の周りを熱気が渦を巻いていく。
 それは二人の間で収束し、緊張感となって張り詰め――

「わかっているとは思うがな。これは試合ではなく、組み手だ。お互いそれをよく理解しておいた上で闘え。くれぐれも、相手を怪我をさせるような闘い方はするな。いいな」

 それを察した哲侍がやんわりと宥める。

『押忍』

 それに二人が、同時に答える。
 しかし天寺の瞳は相手を真っ直ぐに射るように見つめられ、纏の視線は足元に落とされていた。

 既に二人は、臨戦態勢にあった。

「だが、お前たちはそれぞれの県の、高校生王者だ。その実績に、誇りに恥じない戦いも期待している。いいか?」

『押忍!』

 一際強い返事。天寺の口元が緩み、纏の拳が握られる。

 緊張感が、再び張りつめる。

「よし、始めるぞ。正面に、礼!」

 二人が哲侍の方を向き、拳で十字を切る。

「お互いに、礼!」

 再び向き合い、拳で十字を切る。

「構えて――」

 天寺が、緩やかに両手を垂らす。
 その後、前後にリズムを刻みだす。

 纏が、自然な仕草で腰を落とす。
 そして両拳を、アゴの高さに持ってくる。

 緊張感が、最高潮に高まる。
 そのまま哲侍は拳を引き――

「始め!」




 元来天寺は、調子に乗りやすいタイプの少年だった。

 目立ちたがり屋、かっこつけたがり。
 やり遂げた成果を親に見せて、それにより得られる賞賛を喜びとしてきた。

 なにをするにも天才肌の閃きを持っていた天寺は、あらゆる習い事――水泳、習字、ピアノなどで、講師たちを驚かせた。
 その時の彼らの、口をあんぐりと開けて、そこから洪水のように賛辞があふれだす瞬間が、天寺は好きだった。

 しかし何でもそつなくこなせるということは、引いては何をやっても壁にぶつからず、すぐに飽きてしまうということにも繋がっていた。

 天寺は中学二年生までずっと、熱中することを知らず、どこか空虚にドライに生きてきた。
 しかし父親の、学生のうちに武道の一つもやっておけ、という言葉からこの道場に通うようになって、変わった。

 面白かった。

 相手の攻撃をひらりひらりと躱して、遠距離から蹴りを当て、近距離に入って突き――パンチを当てるのは、シューティングゲーム感覚でワクワクした。
 人生初めてといっていいほどのめり込んだ。

 しかしそれも、三年も続けるうちに同年代の道場生たちがまったく相手にならなくなってきて、他の習い事同様に興味が薄れてきていた。
 コツを掴めばあっという間だと、また惰性の日々になりつつあった。

 そこに同じクラスの遥と朱鳥が、見学に来た。

 張り切った。
 やっぱり格好いいところを見せたかった。
 つまらない基本稽古も精一杯やった。特に蹴りのキレをアピールした。
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