イン・ロー

2019年11月29日

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 一瞬自分の身に何が起こったのか、天寺はわからなかった。

 膝の内側を狙ったローキック――イン・ローが左足に叩き込まれたのだと理解するのと、鉄パイプでぶっ叩かれたような痛みが襲ってきたのは、同時だった。

「――いッ! つ……づぅぅぅぅっ!!」

 膝の内側が裂けたように、痛む。
 靭帯が、軋みをあげている。
 それに顔が歪む。

 こんな痛みは、本当に久しぶりだった。
 まともにローキックを――攻撃をもらうこと自体が久しぶりだったから、ある意味今のはぬるま湯からの覚醒の一撃といえた。

 軸足を弾かれ、天寺がバランスを崩す。

 左頬に、何かが肉薄していた。

「――――っ!」

 ほぼ、本能。危険を察した肉体が、脳が何らかの指示を出すより早く上体を仰け反らせていた。

 紙の先で指を切った時のような、鋭い痛み。

 天寺がバランスを崩した瞬間放たれた纏の右上段廻し蹴りが、天寺の頬を掠めていった。
 血が、細い線を作って空中に描き出される。

 ――くそっ!
 乱暴に頬を拭い、前を見る。

 その視界いっぱいに、纏の体が迫ってきていた。

「!?」

 状況把握が追いつかない。
 経験則のみで両腕を交差させ、十字ブロックを作る。

 その上から、すさまじい衝撃が体を襲った。

「っっ!?」

 天寺が頬を拭っている隙をついた纏の、体ごと弾丸のように飛び込んだ膝蹴りが、天寺のブロックの上から叩き込まれた。
 勢いを殺しきれず天寺が二、三歩後方に、たたらを踏む。

 纏が床に着地すると同時に、今度はその体が、弾ける。





 天寺の体に、それこそ雨あられのように拳を叩き込んでいく。
 真っ直ぐ、上から、右から、下から、左から――鳩尾(みぞおち)に、胸骨に、肋骨に、どてっ腹に、肝臓に――!

 それを天寺は、掌、肘、小手――腕の尺骨部を使って、必死に捌いた。
 打点を逸らし、下に落とし、左に流し、上にかち上げ、右に流し、軌道をズラして、凌ぎ続ける――!

 いつものように笑みを作る余裕など、どこにもない。
 捌くたびに掌が痺れ、肘が痛み、小手が軋み、筋肉に疲労がまとわりつく。

 全弾、物凄いスピードと重さだった。
 纏のその様は、まるで体から魂を吐き出しているようだった。

 それほどの力が、気迫が、この突きには、込められていた。
 しかも、果てが見えない。
 捌いても捌いても、あとからあとから降ってくる――

 どこまで続くんだよ!?

 天寺が顔を歪めた、その時。


 ほんのコンマ何秒か、空白があった。


 一秒にすら満たない。
 だが、降り注ぐ拳の雨はほんの僅か、止んでいた。

 ――チャンスか?

 天寺がそう思った、次の瞬間。

 再び地を這う、天寺の左膝の内側を狙ったイン・ロー――を、天寺は足を引くことで、紙一重で躱した。
 唸りを上げて、蹴りが通過する。

 しかし次の瞬間、天寺の反対の足――右足から、派手な打撃音が響いた。

「つッ!」

 同じ左足、返す刀で天寺の奥足の太腿が蹴られたのだ。
 イン・ローに続き、ローキックまでまともに貰うとは――

 飛んでくる拳。

「く――」
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