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2021年11月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「…………」

 そうして去っていった哲侍と遥のやり取りを、朱鳥は天寺から視線を動かさずに聞いていた。

 今まで朱鳥は、力というのは愚かで、傲岸で、それは見るものを不快にする醜いものだと考えていた。
 事実学校で威張り散らすてる奴らはそんなのばっかりだ。

 しかし、天寺の力は洗練され、驕ってもおらず、観衆を惹きつける、華麗なる技巧。
 そういうもののように、思えてしまっている──自分がいた。

「…………」

 その二つの事実の狭間で、朱鳥の心は揺れていた。
 この凄さを認めるべきなのか、それとも今までのように撥ねつけるべきなのか――



 そんなこんなで組み手も終盤に差し掛かり、それぞれが最後の相手との組み手を終えようとしていた、その時。

「押忍(オス)ッ!」

 鋭い掛け声が、道場に響き渡る。

 その場にいた全員の動きが止まり、その視線が声の主――いつの間にか入口の敷居に立っていた人物に、集中する。

 五分刈りの頭に、黒い詰襟の学生服。歳の頃は天寺と同じほどだろう。
 身長はやや低く、俯き加減で直立不動の姿勢を保っている。

 そして肩にかけられた、白い道着を縛る"黒帯"。

「おお、来たか纏(てん)!」

 その少年の姿に気づき、哲侍が笑顔で出迎える。
 少年は堅い表情で姿勢を崩さず、両の拳を振って十字を切った。

「押忍。今日からまた、よろしくお願いします」

「ハハ、相変わらず堅いな。もう少し肩の力を抜け。それで、今日はどうする? もう組み手も終わりかけてるが、折角だから少し稽古していくか?」

「押忍、是非お願いします」

「そうか、なら着替えてこい。更衣室は出てすぐ左だ。時間もないことだし、一本組み手を行うから、準備運動とウォームアップをよくやっておけよ。サポーターをつけるのも忘れるな。準備が出来たら、道場に入って来い」

「押忍」




 最後まで必要最低限の返事だけをして表情をまったく動かさず、その少年は更衣室に向かっていった。

 それを見届けてから哲侍は、

「司!」

「押忍」

 呼ばれ、天寺は組み手を中断し、哲侍の元に走った。

 そこに哲侍は現状を、これ以上なく簡潔に説明した。

「ちょうど今、長崎県の高校生チャンピオンがきた」

 ゆら、と天寺の瞳に一瞬、妖しい炎が舞い上がったように遥には見えた。
 目をこすると、当然のように錯覚。しかし幻のその炎に、哲侍は油――いや、火薬を投げ込む。

「せっかくだから、一本組み手を行おうと思うのだが――ここ、都大会チャンピオンのお前は、どうする?」

 天寺は、一瞬歯を食いしばるような仕草を見せたあと、応えた。

「闘(や)らせてください……ぜひ」



 道場生たちが、新しく来た少年と天寺の二人を囲んでいた。

 新しく来た少年は、名を橘纏(たちばな てん)といった。橘姓――つまりはこの道場主であり、西東京支部長である橘哲侍の、彼は息子だった。

 これには道場生全員が驚いた。
 どういう理由で二人は離れ、どういう経緯で再び同じ支部に所属する運びになったのか?

 しかも高校生である纏が締めてきたのは、黒帯だ。

 この道場には高校生の黒帯は一人もおらず、一つ前である茶帯の天寺が最上級だ。
 その未だ見えぬ実力、それに何よりこれから行われる一本組み手に注目していた。
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