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四十話「ばす、」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 ――耐え、られる?

 膝は一発では止まらず、立て続けに何発も腹にぶち込まれた。
 一発ごとに後ろの襟を引きずりこまれ、勢いがつけられた膝がめり込む。

 その壮絶な光景に、周りの生徒たちが騒ぎ出す。

「キャ――――ッ! あ、天寺君が死んじゃう、死んじゃうよ……っ!」

「……お、おい。誰か、誰か先生呼んでこいよ!」

 だが当の天寺は、厳しい顔つきのままそれを受け続け――顔面カバーを下ろすことはなかった。
 腹を守ろうと両手を下げた瞬間、顔に蹴りが来ることがわかっていたからだ。

 慎二の攻撃は甘くない。
 今までの自分なら一発くらいは耐えられても、こう何発も蹴られ続けていれば間違いなくダウンしているだろう。
 事実今だって、腹筋は軋んでいる。

 だが、今の自分は耐えられている。
 これは一体――

 生徒の一人が教室から飛び出して先生を呼びに行き、五発目の膝蹴りが腹に叩き込まれたあと、天寺からの反応がないのを見て焦ったのか、慎二は攻撃パターンを変えてきた。

 後ろ襟を一旦放し、今度は右手一本で天寺の髪を掴み――左足で、ハイキックを放ってきた。

 それも、髪を引っ張りながら。
 もらえば威力は、二倍増しだろう。
 ガードの上からとはいえ、これはダメージを受ける。

 何をやろうとしてるのかがわかった男子から呻き声と、女子から甲高い悲鳴が響く。
 周りから見れば慎二が、天寺の頭をサッカーボールキックしようとしているように見えたはずだ。

 ったくこいつは……いろいろ考えるなぁ!

 気合一閃。
 上段肘打ちの要領で、その蹴りを上方にかち上げた。





 纏の矢のようなハイキックに比べれば、止まってるも同然のスピードだった。
 向こう脛を完璧に叩いた、固い感触を感じる。
 一瞬慎二は呻き、力が緩む。

 横から、掴まれてる腕の真ん中辺り――足でいう向こう脛、一番骨が弱いところを、思い切り殴りつけた。
 骨が軋みさえする感触。

 戒めが解かれる。
 咄嗟に慎二は両腕で、顔全体を覆うようにガードした。
 天寺の顔がにやける。
 そこは――

 絶好の、間合いだった。



 ばす、



 という、しかし音ではなく感触だったが、天寺にはそれを確かに、聞いた気がした。

 肘には当たらず、押すのではなく刺す軌道で、他の蹴りに負けず劣らず素晴らしいスピードを見せたその蹴りは、慎二の体の中央――鳩尾(みぞおち)に、スリッパの先が5センチはめり込んでいた。

「――――ッ!」

 声も出せず、慎二は崩れ落ちた。

 両手で腹を抱え、床を転げまわる。
 その様は痛がっているというよりも、まるでコメディ番組を見て爆笑している場面のようだ。
 それを上から見下ろし、天寺はギュッ、と拳を握り込む。

 周りの男子から歓声、女子からは喝采が沸いた。
 後方の扉から飛び込んできた男子生徒と杉本先生は呆気に取られていた。
 それには構わず天寺は、天井を仰ぐ。強い衝動が体を襲う。

「――――押忍……ッ!」

 歓声と喝采の渦の中、天寺は十字を切った。
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続きはこちらへ! → 第肆章「宴」

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