第七話「天寺司考察②」
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目次
本編
再び思考。
あの時大島と天寺の間には、腕を伸ばしたくらいの距離があった。しかも大島の目の前には自分がいた。
身長差があるし、あの時自分は俯いていたから大島の上半身は覗いていたとはいえ、色々制限は掛かるだろう。
身長差があるし、あの時自分は俯いていたから大島の上半身は覗いていたとはいえ、色々制限は掛かるだろう。
パンチじゃない。
グローブを弾き飛ばしてるし大島は仰向けに倒れたから、アッパー系だ。それだと届かない。だとすると、あと考えつくのと言えば――
腕が届かないなら、足。キックだ。
……違う気がする。
もしキックだとして、後方に、下からの攻撃で倒されてるから、顔面を蹴られたということになる。
ただでさえ腕がギリギリという距離で難しいのに、その上大島の身長は180近い。
それに何より、そんな派手な攻撃をしたのなら、その場にいた全員から目撃されているだろう。却下。
手足じゃないなら、飛び道具。
なんか物を投げた。
なんか物を投げた。
これだったらまだ可能性があると思う。
あの一瞬、自分に危険が迫ろうとしているのに気づいた天寺が、懐から出した何かを下手投げであごに直撃させ、同時にグローブも弾いた。
高速で投げられる野球のボールは見えない。吹っ飛んでいった物は、あとから回収すればいい。とりあえず保留。
さらに一歩踏み込んで。天寺は何かの超能力者で、あの一瞬それを行使した。
――まぁ、有り得ない話でもないような気もする。
まず超能力が存在するという逆説的証明が必要になる上に、なおかつ天寺がその世界でも例がほとんどない使い手だ、という奇跡的な前提が成り立つならば、だが。
それなら空間がブレたとかいう話も辻褄合うし、誰からも目撃されないで何かを行うことも可能だろう。これもまあ本当に一応念のためだが、保留。
考えられるものはこんなところだろうか。
多少荒唐無稽な仮定も混じってる気がするが、何しろ情報が少ない。
なんて考えている間に、天寺は廊下の突き当たりに行き着いていた。遥は改めてその動向を注視する。
天寺はそこから踊り場を越えて、階段を上がり始めた。それに朱鳥も注意深くついていく。
その先にあるのは、食堂。現在最も混雑しているスペース――
である四階の踊り場を、天寺は素通りした。
「…………え」
思わず遥はつぶやき、ハッと口を押さえた。
天寺を見る。こちらには気づかなかったようだった。
「……なにしてんのよ、遥」
「あ、いや……ごめん」
小声で謝り、尾行再開。
だが疑問はやはり残る。既に現在ここは四階だ。この先にあるのは、ただ――
そんな遥の危惧をよそに、天寺は"屋上"へと続く鉄扉を、開けた。
そしてそこに現れる、コンクリート製の巨大な壁。
「……どうすんのよ?」
朱鳥のつぶやきに、遥も唾を飲む。
屋上へと繋がる、僅か50センチのスペース。
そこに、侵入者を拒むよう視界いっぱいに広がる一面の、壁。
そこに、侵入者を拒むよう視界いっぱいに広がる一面の、壁。
左右に隙間はなく、その高さは3メートル近く。
話によると、以前屋上で傷害事件が起こったらしく、それ以来生徒が入れないように設置されたとか。
その中央には教員用にとドアがとりつけられているが――
天寺が手を伸ばして、ドアノブを握った。
そしてそれを、回す。
がちゃがちゃ、と二回硬い音を立てて、それは屋上への侵入を拒んだ。
「よねぇ……」
朱鳥が呟いた。
遥も同様の感想を抱き、眉をひそめた、その時。
ガチん、と何かがハマるような音がして。
見ると天寺は、グリッと90度に完全な形で、天寺はドアノブを回転させていた。
「――――え?」
遥と朱鳥が言葉を失う中、天寺は強引に捻ったドアノブを押して、屋上へ歩みを進めていった。
悠然と、こんな事いつもやってるという様子でドアを閉めて、あとにはガチャ、という硬い音が続いた。
朱鳥は口の端を痙攣させて、呟いた。
「……とんでもないやつね、あいつ」
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