ⅩⅩⅧ/死の在り方①
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本編
だから、やるしかなかった。
まるでアレのようだな、とベトは笑った。
「なにがおかしい?」
隊長格の男が、低く尋ねてきた。
今すぐ畳みかければすぐに終わるというのに、こいつも随分付き合いがいいと思った。
これが、この男なりの騎士道というやつなんだろうか?
ならば、口だけでも動かしておこう。
「……もう、ンでも、いンだよ」
「なんだと?」
もう自分でも、なにを言ってるかわかんねぇ。
でももう、死ぬなら理屈も糞もねぇ。
シンプルにいこうぜ。
「わかんねぇな……もう、いンだよ。勝とうが、負けようが、死のうが、生きようが。そンなこたァ、もうどうだって、いンだよ。ただただただただ、戦うンだよ。それ、だけだ」
「……理解出来んな。所詮、獣か」
「違うな。それは違う。オレは今まで、獣になろうとして、考えて生きてきた。その結果、大いに間違えて生きてきちまった。
オレは、ビビってたんだよ。本当にすべきことをせず、出来ることをやってきちまった。でも本当は、最初からこうすべきだった。あぁ、そうだ。
それをそこの子に、教えられた」
チラリ、とベトはアレを見た。
ったく、最初バカだ無謀だ意味不明だと罵し――ってはいないか思ったことを、反省しねぇとな。ベトはニヤリ、と笑っていた。
ふと、そこでベトは気づいた。
なぜ、斬りかかってこない?
「……あんた?」
「ひとは、思うように生きるのは、難しいものだな」
「? なにいってンだ?」
「なんでもないさ。貴様と喋れて、悪くはなかった。だが――」
槍斧(ハルバート)を、振りかぶる。
やべぇな。ベトは苦笑いを浮かべる。
今度あれが来たら、どうやったって避けられる自信はない。
首斬り公が首を斬られて終わりだなんて、最高だなと笑いが止まらなかった。
「――さらばだ。俺は俺の生き方を、まっとうする。お前もお前の我を――通せッ!!」
轟音を巻き起こして"死"が、やってくる。
それをベトは、決して目をそらさずに見つめていた。
それはベトにとって、決して避けるべき相手ではなかった。
それは生まれた時から、ずっと傍にいた。
しかし決して交わることはなく、適度な距離で一緒にいた。
語ることもあり、そして酒を酌み交わすこともあった。
いわば、友のようなものだったんだと初めてベトは、理解した。
「そうか……」
そしてベトは、受け入れた。
死を。
自分の中に。
それは矢が飛んできた時のあれとは、また違う。
死を特別なものをと思わず、ひとつの結果として、自分の中で消化することだった。
死が、頬の肉を削ぎ落として通過していった。
怖い怖くないを、それは越えていた。
ただひたすらに、それは事実に過ぎなかった。
だからその一撃が、"左腕を肩口から斬り落とした"ことにも――
「ベト……っ!」
アレが、叫ぶ。
一瞬、隊長格の男が笑った。
それは冷めたものだった。
こんな男でも笑うということに、しかしベトはなんの感慨もわかなかった。
頓着しなかった。
ただ右腕を振り上げ――剣の切っ先を男の兜と鎧の間に出来た隙間の喉元に、突き立てた。
「ガッ――――」
生体反応により男は血を吐き出し、しかし男の瞳はじっとこちらを見つめていた。
その揺れない、真っ直ぐな視線が、語っていた。
――見事。
男は、崩れ落ちた。
前のめりに、ベトの方に。
それをベトは、黙って受け止めた。
左腕からは、それこそ濁流のような出血が起こっていた。
だがそれを、ベトは構わなかった。
「わりぃな……」
ただ一言。
謝罪を口にして、そしてベトは、王の方を向いた。
「……さーて。あんたにゃ一言、いってやんないとな」
踏み出す。
それに伴い腕の出血が、酷くなる。
それにベトは一瞬顔をしかめたが、なんとか歩みを再開する。
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