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Ⅺ/月が世界を食べる夜②

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 沈黙に耐え切れず、ベトが会話の口火を切った。

 それにアレは焦点が合っていない瞳でぼそりと、

「すいた……」

 きっかけ。
 ベトは今までまるで発揮しなかった対人関係における切り込む隙を見つけるという喜びを発見してしまった。

「そ、そっか! もう食堂はしまってっけど、とりあえずこれだけは持ってきたから、よっ」

 後ろから。机の上に置いておいたパンと野菜スープが入った皿を、差し出す。
 それをアレは、ぼんやりとしたまま受け取り、パンをのそのそと千切り、ゆっくりと口に運び、

「もふもふ……ほいひ」

「お? ほれほれ、スープも飲みな?」

「んくんく……おいし」

 ひと息。
 それにベトも、息を吐く。
 ただの食事、それになんでこんなに神経を使う?

「あ、ベト」

 まるで今自分を見つけたかのような反応に、ベトは頭を抱える。
 信じらんねぇ無防備さ。

「今、気づいたのかよ……とりあえず良かったわ、大丈夫そうで。頭痛いとかないのか?」

「ん、ない」

 返事をしながら、むしむしとパンを千切りそれを口に放り込む。
 アレは食事に、集中していた。
 それを察し、ベトも質問をやめ、再び椅子に深く座り見守る体勢に戻る。
 なんだか、最初に会った頃に戻ったようだった。

 食事を済ませしばらくしてから、アレは今気づいたようにベトの顔を見つめた。
 しかも結構、長い間。

 それにベトは理解できずに、疑問符を浮かべる。

「ど、どうした?」

 動揺、再び。どうも目覚めてから、アレの挙動に不審が目立つ。
 理解できない。
 いや、それは元々か?

「…………」

 喋ってくれない。
 ずっと。
 もはや犬か猫かと。

 とりあえず、こちらも黙っておくことにする。
 いい加減、気を使うのにも疲れたし。
 というかそういうキャラじゃないし。

 頭を、ガリガリとかく。
 潮時か。

 席を立つ。
 色々と聞きたいこともあるが、今こうして回復したばかりの深夜に聞くこともないだろう。
 それになにより、それは簡単に済むとも思えなかった。

 スタスタとドアの傍まで移動し、いつもアレが使ってる寝床に、横になる。
 そしてアレから背を向け、ドアを向いて、瞼を閉じた。

 今日だけは、ベッドを譲る。
 ゆっくり休め。
 明日、色々聞かせてもらうさ。

 それだけ心の中で呟き、ベトは意識を沈めていった。


 そのやり取りを、スバルはドアの隙間からこっそり覗き込んでいた。

「おいおい、なにやってんだベト……?」

 スバルは、眉をひそめていた。
 あのぶっきらぼうで、無頼で、面倒くさがりなあいつらしくもない。
 えらく気を使っているし、慎重で、じれったくて、思わず飛び出したくなった。

 さすがにそれは抑えたが。
 さっさと襲っちまえってーの。
 女は情で、離れなくしちまえ。

 スバルの座右の銘だった。
 前時代的だが。
 その心の声も、当然ベトには届かない。

 だが。

 ふて寝するように横になったベトと違い、アレは放心したようにベトを見つめていた。
 ベッドに腰掛け、手足をブラブラとしている。
 いや、それがベトを見ているとは限らなかった。
 アレの視線は、ドアの――こちらの方を、たゆたっていたからだ。

「…………」

 何を考えているのか、読めない瞳。
 それがスバルには、不気味に映った。
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