Ⅴ/傭兵の生活②

2019年11月17日

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 それに、反射的に頬を抑える。

 痛い。
 初めての感触だった。
 あの時――尖った金属を無理やりに肉に分け入られたのとは、別の衝撃を覚えた。

 それに、頭真っ白になった。
 それで前を見たら、ベトがいた。

「……ベト?」

「っ……やっと正気に戻ったかよ? ったく、んま焦らせんなよ」

 顔に手をやり、そのまま後ろのベッドに仰向けになる。
 その状況に、アレは完全に頭?になる。

「え……その、あ、あれ?」

「んだよ? 慣れない寝床に、怖い夢でも見たかよ?」

 ベトの言葉に、今までのことを整理し――納得する。

「あ……は、はい。その、そうみたい、で……」

「ま、しゃあねぇか。いきなり俺みたいな危ない奴と二人っきりの部屋で寝たんだ。そりゃ悪夢も見るよな。ハハ」

「いえそんな、危ないだなんて……」

 そういえば最初の出会いでは娼婦だなんて呼ばれて連れて行かれそうになったことを思い出す。
 なかなかフォローが難しい状況だった。

「ま、それでも今すぐ手を出す気はないから……っつても安心してくれとは言い辛いがな」

 正直すぎる言葉に、アレは何も言いだせなかった。
 今すぐ、ということは後には予定があるのだろうか?
 しかも安心してくれとは言い辛いとは、結局何が言いたいのかわからない。

 わけわからない会話。

「……ぷっ」

 思わず噴き出したアレに、ベトはベッドの上で上半身を跳ね起こし、頭に?を浮かべる。
 そうこうしているうちに、召集の鐘が鳴った。
 それにベトはベッドから飛び上がり、立ち上がる。

 アレはさらに?を頭の上に浮かべ、

「じゃあ、行くか。昨日約束したろ?」








 炎天下。

 それは、地獄の所業だった。

「ほれ、127,128,129,130っ!」

「う……く、ぐ、っぅうう……!」

 アレは、剣を振っていた。

 アレが泊まった建物はコの字型に展開しており、中庭が存在していた。
 その中央に井戸が、連絡用の鐘が設置され、その周囲を囲むように傭兵たちが思い思いの鍛錬をしていた。
 その輪の中に、アレとベトの姿もあった。

 昨日約束した通り、ベトはアレに剣の振り方を教えていた。
 剣の握り方、振り上げ方、そして下ろし方。
 その時脇をしめる、握りは小指に力を入れるなど基本的なものを一通り教えたあとは、ごたぶんにも漏れずの反復練習の始まりだった。

 持ち上げるのさえ苦痛を伴う鉄の塊を、だ。

「ぅ、うう……っ、はっく……!」

「271,272,27――って、おいおい全然ついてこれてないぞ?」

 ベトが隣でブンブン唸りを上げてバカみたいにでっかい歪曲した片刃の剣を振りながら、楽しそうににこちらを見て軽口をたたく。
 訂正、愉しそうにが一番合っているだろう。

 それに対してアレは椅子に座った状態で、へろへろと剣をお腹の前あたりにまで持ち上げては、それを下ろすというか落とすという動作を、繰り返していた。
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