ⅩⅧ/哀しい笑顔②
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本編
さぁ、ここが岐路だ。
あんたの覚悟を、試させてもらおうか。
「軍隊って、なんですか?」
「また、そこからかよ……っ!」
ベトは思い切り、頭を抱えた。
ふとすると忘れがちだが、この子は無知な子供そのものだ。
言動が堂々としたり、やたら物怖じしない時もあるからあれだが。
ベトは気を取り直して、
「……軍隊ってのは、俺たちみたいなのをたくさん従えてる組織のことだ。戦争してるっつったろ? 国は、軍隊を使って戦争してるんだよ。
その軍隊が、あんたを御所望なんだと」
「わたし、を……ですか?」
「ああ。あんたの妙チクリンな力を、貸して欲しいんだろ。で、あんたはどうすんだ?
行くのか、行かねぇのか?」
「いきます」
肩透かしもいいところだった。
悩みすらしないとは、失望させてくれる。
いやでもこの予想の斜め上感も、らしいといえばその通りか?
結局ベトは、感想を結論づけられなかった。
「そうか、行くか。じゃあな、短い付き合いだったが案外楽しかったぜ。ああけど、戦争を舐めん方がいいぜ? 確かにあんたは変てこな力を持ってるみたいだが、それだけでそうそう簡単にはいかないのが戦争ってもんさ。色んな奴いるし、戦略や地形とか――」
「いって、みなさんにもお願いしてきます」
「……お願い、だと?」
「はい。世界を変えたいんで、協力してくださいって」
一瞬、正気を疑った。
けれど、この自分をして協力を願い出たこの子を思い出し、現実問題に直面することになった。
「……あんた、あの連中にも助けてもらおうと考えてやがるのか?」
「助けてというか、わからないことを教えてもらおうと。そして出来たら、わたしにできないことをやってもらえたら、嬉しいです」
「……あめぇ」
俯き、ベトは低い声を出す。
それにアレは頭の上に疑問符を浮かべて頭を傾げたが、それにベトは吐き捨てるように、
「あめぇ……あんた、奴らのこと知らねぇからンなこと言えンだよ。奴ら人の命なんて、道端の石くれ以下ぐらいにしか考えてねぇンだぞ? 人が死のうが生きようが、自分たちの利益さえ守って、人の利益を奪えればそれでよしとしてる連中だぞ? そんな奴らに、話が通じるとでも思ってんのかよ!」
「でも、お話は出来ると思います」
「できねぇよっ! 薄汚ねぇひと殺しのおれたちに、毛が生えた様な連中だぞ?」
「でもベトたちは話を聞いてくれました」
「ッ……き、気の迷いだ! そんなもん、他の連中にまで期待すんじゃねぇ!」
「でもやらないと」
「やるやらないの問題じゃねぇ、できねぇっつってんだ! 理屈で考えろ、頭で理解しろ! 出来ないって、無理だってわかってっから誰もやんねぇんだろうが!」
「でもやらないと、世界を変えられないから」
「夢見てんじゃねぇ!」
ベトはついに爆発し、アレの胸倉を掴み、引っ張り上げた。
それにアレは、抵抗しない。
その瞳は怯えもなく、真っ直ぐにベトを見つめていた。
むしろ吼えているベトの方が、その純粋な瞳に怯んでいた。
「ッ……わかってねぇわかってねぇわかってねぇわかってねぇッ! あんたなンにもわかってねぇわッ! 世の中ってのは、あんたが思うほどみんな優しくねぇ! できねぇもんはできねぇし、世の中諦めなくちゃ――」
「――――」
「……あんた、」
言葉が、続けられなかった。
もう、その瞳がすべてを物語っていた。
「……どうしても、行くのか?」
「はい」
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