Ⅸ/不吉な兆し②
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本編
寝不足の日の朝の日差しは、ほとんど殺人的に凶悪だと思う。
ほとんど晴れないで欲しいとさえ思うくらい。
細胞の一つ一つが渇き、砂になりそうだった。
めいっぱい、あくびを漏らす。
なんだか逆に、頭が重くなった心地さえする。
いつも愛用している大剣が、重く肩にのしかかる。
まったくもって、やる気が出ない。
「お、どうしたベト。今日はえらい元気ねぇじゃねぇか?」
「ほっといてくれ……」
鍛錬場へと続く道をのたのた歩くベトを、歳、体格ともに不相応に元気なスバルが追い越し、会議室に向かっていった。
その際にかけてきた声に、気だるげに答える。
結局あれから建物のありとあらゆる場所をしらみつぶしに調べたが、アレの姿を発見することは出来なかった。
おかげですっかり寝不足だった。
当のアレは、戻ってみればぐーすか寝てたし。
「ふあーあ……今日も、素振るか」
愛剣を抜き、構える。
と、隣から声が聞こえた。
「に、じゅう……いち。に、じゅう……にっ!」
視線を送ると、既にアレは昨日と同じ位置に置かれた椅子に座り、そしてかなりの数の素振りをこなしていた。
もちろんそれは他の傭兵の10分の1にも満たない数だったが、間違いなく進歩をしていた。
上げてから下ろしてそしてまた上げるまで、昨日は十五秒だったが今日は十秒ちょっとぐらいにはなっている。
「ま、微々たるものではあるが……」
「お、嬢ちゃん頑張ってるな!」
なんて呟いてたら、やっぱりというか周りの傭兵仲間が声をかけてきた。
自分の鍛錬はどうした?
とベトはジト目を向けてみるが、もちろん気づきもしない。
そして当人であるアレも、
「あ、はい! ありがとうございます! ……にじゅう、よんっ!」
笑顔を振りまき大きく返事し、またも律義に練習再開。
それを見て声をかけてきた野郎も腕を組みうん、うん、なんてニヤケ面を作りやがる。
父親かなにかにでもなったつもりか?
なんて考えているとさらに、
「あ、お嬢ちゃん今日も頑張ってるね頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます!」
「言葉被ってんだよ……」
「あ、アレちゃん可愛いね!」
「いえ、そんな……」
「なんだそりゃセクハラか?」
「アレちゃん、付き合ってください!」
「いえあの、わたしには世界を変えるという使命が……」
「えーいお前らうっとうしいっ!!」
次々かかる言葉に、遂にベトの方が爆発する。
叫び、睨み、自慢の愛剣を構える。
それに集まった仲間たちは一斉にまーまー落ち着いてという形に両手を掲げ、
「……なんでベトは怒ってるんですか?」
炎天下で剣を振って汗びっしょりでしかも軽く赤くなったその柔らかそうな顔でくりっと頭を傾げられると銀糸の髪がさらりと流れ、もう何もかも許してしまいたくなるから勘弁してほしかった。
じっと見てくる。
上目づかいに。
反則のオンパレードだ。
どうとでもしてくれ。
頭を抱え、
「まー、別にー……剣振っとけ」
「? はいっ」
「よーしみんな剣振ろうぜー!」
『おうっ!!』
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