第32話「五月二十九日、木曜日①」
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本編
そんな悪夢を見た日の大学の昼休み、
「今日も……いる」
少しの驚きと共に、僕は過去の自分の指定席に違和感無く座る彼女の姿を見つめていた。
今日の日付は、衝撃の出会い――ってほどでもなかったが、それから二週間が経った、五月二十九日、木曜日。
彼女はあれから、毎日僕の指定席に現れた。
昼休み時間になって以前のようにあらかじめ休み時間に買っておいたパンを持ってぶらぶらと吹き抜けに出ると、必ず既に彼女はいて、じっと前を見ているのだ。
そしてしばらくするとおもむろにバッグからパンを取り出し、頬張りだす。
あの日から僕が座る指定席は、そこから三つ右側に離れた席に変わっていた。
ストーカーみたいだな……。
新しい指定席に座り、カツカレーパンを頬張りながら僕は自嘲気味に思った。
初めて会った……というか、見つけた日以来、僕は彼女に話しかけることをしていない。
ただこの新しい指定席に座って所在無くアリーナの方を眺めたり、たまに彼女の方を盗み見たりしながら食事を取っているだけだ。
一人でぼんやりと放心しながら取っていた頃と違う、たった一人誰かが近くに座っているというだけで繰り広げられる、無言という名の緊張感。
あの日以来、僕は昼休みになるたびその中に飛び込んで昼食をとるはめになった。
無言の緊張感のせいで、昼食の味なんかまるでわからなかった。
だったら場所を変えればいいだろ、と言われそうだが、僕自身はこの場所の寂れた感じを気に入っていたし、やっぱり彼女のことが気になってもいた。
あの黒一色の格好に意味はあるんだろうか?
あのバッグの中身は本当はなんだったんだろうか?
気がつけば僕は食事もそこそこに彼女の方を盗み見ていた。
そんな毎日を過ごしてるうちに僕は、彼女に関する三つの事柄を確認した。
一つ。
僕が学校で見る限りではあるが、彼女は最初に着てた時と同じ格好しかしてきていない。
これはいわゆる全身黒で統一されたワンピース、帽子、手袋、ハイソックス、ローブーツにハンドバッグというものだ。
しかし汚れてる様子も――黒だから確証はないが――しわが寄っているような様子もないので、同じものを何着も持っている可能性が大きい。
てか多分持ってる。
女性だし。
これであの日が葬式だったから、特別に喪服として着ていた訳ではないと判明。
しかしあの日が葬式ではなかった、ということの決め手にはならないと思われる。
なぜならあの日、僕は彼女のバッグの中に――(以下推測に過ぎない為、省略)
二つ。
彼女は昼食中においては前方だけを注視し、一切視線を外さず、表情も変えず、食事のための仕草も最小限のみに留めている。
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