第70話「儚さ」
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本編
恐怖に、彼女の答えが来ることに、心臓が高鳴る。
手の平の汗を握り潰す。
彼女はしばらくは考えるような様子を見せていたが、突然閃いたように携帯を取り出し、熱心に何かを打ち込み始めた。
と、思った次の瞬間、ポケットの携帯がメールの着信を告げた。
急いで取り出す。
送信元は、やはり目の前の彼女だった。
覚悟を決めて、本文を読む。
『それも、私のことを知りたいから?』
心臓が跳ねる。
最初の出会いの、骨のような白い棒状の物がフラッシュバックする。
心臓が跳ねる。
さっき不意に抱きしめてしまった時の、彼女の錯乱状態がフラッシュバックする。
心臓が跳ねる。知りたい――でも……
心臓が跳ねる。
心臓が跳ねる。
心臓が跳ねる。
心臓が跳ねる。
…………恐い。
恐さと、あの日以来刻まれてしまった弱気な自分が、まともに意識の表層に表れる。
――知ってしまったとして……後戻りは、できるのか?
暴れ狂う心臓の音は、まるで打ち鳴らされる早鐘のようだった。
ずっと携帯の画面を睨んでた顔からも、冷や汗が吹き出してくる。
意識と、答えを聞かなければならない義務感がせめぎあい、僕はそれから逃れるように、彼女の顔を見た。
感情、というものがまるで宿っていないかのような冷たい瞳が、試すようにこちらを見つめていた。
それは――骨のことを聞いた時の、去り際のように
放っておけばまた、踵を返して去ってしまいそうな――
どくん、
そんな冷めたような、でも、どこか儚さを秘めたような姿に、心臓が波打つ。
――なんで。
彼女の言葉がフラッシュバックする。
僕の行動一つ一つに『なんで』を繰り返し送ってきた、彼女。
……もし、彼女が一人で苦しんできたなら、
心を、決めようと思った。
それが何でなのか……知りたい。
答えは出た。
覚悟、なんて大それたものじゃないけど、このまま、はい、さよなら出来ないことも、わかった。
『うん』
一言だけ打ち込み、送信する。
彼女を見る。
彼女は頭を下げて携帯を見て、少しだけ驚いたような顔をこちらに向けて、下ろして、またすぐにメールを打った。
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