第33話「五月二十九日、木曜日②」
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本編
以前受けた印象と同じ、食事を必要な作業のように行っている節が見受けられる。
……クールだ。
やはり親族の誰かが死んで、悲しみに暮れているのだろうか……?
ならば僕がその痛みを――(以下分析に主観及び妄想が入り始めた為、省略)
三つ。
昼休みに入り、僕が階段を通って吹き抜けにやって来る時点では必ず先に席に座っており、同じく昼休みが終わるきっかり五分前に席を立つ。
これは毎日月曜から金曜まで違えられることなく繰り返されている。
几帳面さが垣間見える。A型の可能性高し。
結婚したらいいお嫁さんになるタイプ――(以下同様に分析に主観及び分析者の願望が入り始めた為、省略)
――とまあ。
そんな風にばりばり主観がが入りまくった痛々しくも馬鹿馬鹿しいデータを心の中で取りながら、僕は息詰まる二週間を過ごしていた。
でも、息詰まる二週間ではあったが、疲れる二週間ではなかった。
彼女は僕に話しかけようとはしない。
それどころか、その存在に気づいていないかのような素振りだ。
前だけを見て、時折パンを頬張る。
でもそこにいる。
存在している。
それは、僕が今まで味わったことのないような不思議な感覚だった。
誰かがいるということは、気を遣わなければならないことだと思っていた。
気を配らなくてはならないことだと考えていた。
だけど彼女の場合、それは違った。
しかも、彼女はどこか儚さを秘めていた。
それは危うさといってもいいような感覚だ。
ピン、と張り詰められたぎりぎりの均衡。
触れれば崩れてしまうことを思わせるそれは、それ故の美しさを内に秘めていた。
僕はその感覚を、どこか自分でも気づかない内に好んでいた。
なぜだろう?
それはわからない。
ただ心地良い。
いるだけで落ち着く。
そんな気分に、これはさせてくれるのだ。
その上分析の通り、一緒にいればいるほど浮かんでくることは謎だらけだ。
これで気にするなという方が無理だった。
そんな彼女を見ているうちに、僕は彼女と何かしらの形で関わってみたくなった。
しかし、既に二度失敗している。
これ以上の失敗は許されない。
そこで僕は自力での任務続行を断念し、その筋の専門家に仕事の依頼を頼み込むことにした。
同日、夜半過ぎ。21:30時(ふたひとさんまる じ)。
自主練中心の本日の稽古(にんむ)を終えた僕は、即時自宅の部屋に戦略的撤退を行い、『携帯電話』という、この二十年で急速に普及してきたきた汎用型の連絡手段を用いての専門家とのコンタクトを試みる。
汎用型の連絡手段は盗聴の危険性があるためあまり好まれないが、この件はそれに関する危惧はない。
四時の方向にある入り口を気にしつつ、緊張に震える手を抑えて、出来るだけ冷静に番号をプッシュする。
一つ、二つ、三つ――十と一つ。
呼び出し音が鳴り響く。
夜の八時を過ぎた、静寂が支配する田舎町の自分の部屋に響くそれは、まるで世界そのものが震えているかのように錯覚するほど大きく僕の耳に響いた。
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