第27話「バッグの中身①」
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本編
女の子はパンを食べていた。
何のパンかはよくわからなかったが、よそ見をせずにまっすぐ前だけを見て淡々と食べていた。
それは食事を楽しむというより、ただ必要だからその作業を行っているというような印象を受けた。
そのまま顔に視線をずらす。
少し、心が色めき立った。
その顔のつくりに、綺麗さという形容詞の中に可愛いさという相反する要素を秘めたような、不思議な印象を受けたからだ。
格好、仕草、表情と無駄の無い中にある整った顔立ちは、人の顔、というよりも名の知れた職人が作ったフランス人形のような完成された美しさがあった。
が、背の低さと顔のパーツ――例えば瞳はつぶらで、頬の輪郭は丸い――そのものはあどけなさを感じさせるものがあり、それが先の矛盾した印象に結びついていた。
床に置いてあるハンドバッグを見る。
形はオーソドックスな、財布や携帯電話などの小物を入れるタイプの小さいものだ。
色は黒で、遠目ということで素材はよくわからなかったが光沢はないのでエナメルや皮製ではないと思う。
柄も特に無く、酷くシンプルな印象を受ける。
取っ手の周りを見ていると、ジッパーが少しだけ開いていることに気づいた。
大体指二本分くらい。
バッグはこちらに腹を見せる形で置かれているため、少し背を逸らせば中身が見えるかもしれない。
ほぼ無意識の反応だった。
見れるものなら見る、という、何とも原始的な行動動機だったと思う。
「くぁあ――っ」
わざとらしいほど、疲れた人間が息抜きに体を伸ばす時の声を出して両手を伸ばし椅子を傾け、体を逸らす。
逸らしながら一瞬、横目を使う。
瞬間、僕は目を剥いた。
「――――っ!」
危うく声が出そうになるのと椅子が倒れそうになるのを、生唾を飲み込むことと両足を突っ張ることでギリギリ堪えた。
息を細く吐きながら浮いた椅子の前足を静かに戻し、俯く。
さっき見えたものを冷静に考える。
彼女の足元のバッグの、僅かに開いたジッパー。
特に深い理由もなく降って沸いた好奇心から覗いたそこには……いや、でも、見えたのは一瞬だ。
確証は持てない。
だけど、でも、そう見えた。
僕の網膜が捉えたのは……ジッパーの下の、まるで地獄の底のような暗い空間から覗いていたのは……
――白いもの。
丸く、先端が割れている白いものが、ぽこっと飛び出しているように、見えた。
それはまるで、下の方が棒のようにになってる、
骨――――のような……
最初に浮かんだのは、絶対に見間違いだと叫ぶ内なる声だった。
絶対見間違いだ。
そんな訳ない。
なんでハンドバッグに骨を入れる必要がある?
よく考えろ。
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