第85話「虎顎の構え」

2020年5月20日

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「――初段、石窪正治(いしくぼ せいじ)。三段、白柳進也(しろやなぎ しんや)」

 どよめきが沸き起こる。

 来た。
 最初に指名だ。
 ツイてる。

 僕は気合を込める。

「押忍ッ!」

 拳で十字を切って、勢いよく立ち上がる。
 中央に進み出ると、周りがよく見えた。
 顔がごつい、筋肉が発達したカタギではありえない男達の姿が目に飛び込む。

 同時に帯の金筋も。
 五人が一本で、一人が二本、一人が三本。
 そして今目の前に来た、無精ひげに四角い頭の男の金筋も、当然一本。

 視線を壇上に。
 そこには傲然とこちらを見下ろすとうさんの姿と、後ろにかけられた『不動泰山』『変幻自在』の掛け軸と、その黒帯の金筋。
 八本。

 腰を上げ、僕と正治の間に立つ。
 背は僕の方が少し高いくらいなのに、体もそんなにごついわけじゃないのに、その威圧感は尋常じゃない。
 びりびりと背筋が痺れる。
 顔が引き攣る。
 緊張感が作り出される。

 見ると、正治も顔が強張ってた。
 ……久々だな、こうしてやり合うのも。

 距離を取り、構え、

「始めぇッ!」

 僕が先に出た。
 床を蹴り、上段前蹴りを顎先めがけて跳ね上げる。

 面食らった正治は慌てて体を仰け反らせて、ぎりぎりの所でかわす。
 だけど僕の蹴り足は止まらず、

 ぴた、

 と体に張り付くように、真っ直ぐに天を突き、停止した。

 どよめきが起こる。
 アピールのつもりはないのですぐに蹴り足をしまい、再び構える。

 左足を前に出した、半身。
 それも半端な半身ではない。
 ほぼ完璧に相手に側面を向けた、完全な半身。

 そして前手(ぜんて)である左手を極端に下げ、肘を九十度に曲げる。
 後ろ手である右手は脇をしめて、顎の傍へ。
 手は拳を作らず、掌で。

 虎顎(こがく)の構え。


 正治はオーソドックスに腰を落とし、両拳を握り顎の傍へ。
 体はこちらへ向け、三十度ほど半身を切る。
 一般にファイティングポーズとも呼ばれている、

 双手(もろて)の構え。

 今度は同時に出た。
 正治は全身がちがちにガードだけ固めて、突進してくる。
 接近戦狙いか。
 望むところだ。

 体勢を落として、下から掬い上げるように飛び膝蹴りを、その体躯に突き刺す。
 突進が止まる。
 だがすぐに、右拳が僕の頬を襲う。

 間一髪、頭を下げて躱した。
 にやりと笑い、今度は右中段廻し蹴りを超接近戦から脇腹に叩き込む。
 脛の奥の部分が食い込む感触。
 一瞬正治の息が止まったのがわかる。

 いきなり視界がなくなる。
 次の瞬間目に火花。
 瞼を開けると、正治の針山のような頭が見えた。
 そして鼻から垂れる、どろりとしたもの。

 油断したな、まともに正治の頭突きを鼻っ柱にもらったか。
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