第63話「なんで?」
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本編
『彼女は……ありゃあ別に暗いんじゃない。単に感情表現が下手なだけだね。お前が引き出してやれよ』
そこまで考えて、不意に切間の言葉が頭の中に甦った。
――切間、攻めていいんだよな?
別に嫌なんじゃなく、感情表現が下手なだけなんだよな?
息を吸い込み、僕は彼女の疑問に答えた。
「もっと一緒に、いたいから。もっと暗戸さんのこと、知りたいから」
自分の言葉に打ちのめされた。
し、しまった……! か、考えなしに、僕はなんつう臭くてストレートな物言いを……
手の平の携帯が震えた。
びくっと体が跳ねた。
いきなりの不意打ちだった。
まるで腫れ物を触るみたいに慎重に顔の前に持ってきて開くと、やっぱり送信元は目の前の彼女だった。
また三文字だった。
『なんで』
言葉を失う。
再び突き出された疑問。
なんで。
今度は、
なんで一緒に、いたいのか。
なんで彼女のことを、知りたいのか。
「……今まで暗戸さんのこと、誤解してたみたいだから。本当はどんな女の子なのか、気になったからなんだけど……」
再び携帯が震える。
今度はちゃんとした文章がつづられていた。
『なんで私のことなんか気になるの?』
……"なんか"?
「なんで自分のことを、私のこと"なんか"、なんて言うの? それは良くないと思うよ」
彼女は俯いたまま、その帽子のつばに表情を隠している。
再び携帯が震える。
『なんで?』
ただ、?マークがついてるだけで、ただそれだけで悲痛な文章に見えたのは、僕の気のせいか自意識過剰なのだろうか。
「僕は、他の誰でもない暗戸さんと、一緒に買い物をしたいんだ。だから、そんな自分を卑下するような悲しいことは、言わないで欲しい」
少しの間があった。
彼女の姿は動くことはなく、ただ俯いたまま。
その間に、首筋を流れる汗と耳朶(じだ)を叩く蝉の鳴き声と周りの店の喧騒を思い出し、携帯が震えた。
『わかった』
彼女が顔を上げた。
そこには、一見するといつもと変わらぬ人形のような無表情があった。
でも僕は気づく。
彼女の目に、今までの無感情とは違う、何らかの光が秘められているのを。
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