【かおす寒鰤屋】この程度の雨なら濡れるのも風情だ―骨董漫画に眠る至極の名言!
骨董がテーマのジャンプ漫画
ジャンプ漫画の中でも極めて珍しい骨董をテーマにした作品。
集英社のスーパージャンプにて王様の仕立て屋シリーズを現在第四部まで連載中の大河原遁が綴る物語。
トルネコの大冒険や、がんばれゴエモンなどのゲームをしたことがあり、そういった関係でアイテムを買い取って高く売ったり、レアアイテムを探したりと言うことが興味があったので、その作品はかなり印象に残って読ませてもらっていた。
特に印象に残っているのが記念すべき第1話で、日本の骨董が茶の湯の流行とともに大名から始まったと言う歴史を語っており、なるほどなぁとそこから勉強したことを覚えている。
そして第1話に出てきたシスター、江藤真理亜が、私好みのショートカットにおとなしめな印象だったので、かわいいなぁと思って、その話の内容とのギャップで、余計気にいっていたと言う裏事情があったりもする(笑
その時取り上げられた大きなのっぽの古時計という最初の歌詞と、グランドファーザークロックと言うそのタイトル通りの大時計が、まさかの400万円の値がついたと言うあたりも、夢があって実によかった。
特にこの方向で美少女が出るような定番かと思いきや、女性の依頼者と言うのはそれ以降なかったので、余計象徴的な話だとも言える。
しかし私が今回取り上げて、最も印象に残っているシーンというのが、その次の話しである第二話。
茶聖千利休に認められた楽焼の祖、長次郎の品、楽ノンコウを狙って襲われた落語会の大御所、楽柳師匠の代わりに、口寄せで代役を務め、その最期を見事な形で見送った主人公倉本駆馬。
その後、ノンコウが既に人手に渡っていることを知った、楽柳を襲った暴力団員が総出で出かけるところに倉本駆馬は現れ、その品を見せ挑発し、奪い取ろうと手を出したところに、怒りの鉄拳をぶつける。
そしてその次の胸元にしまいながら、静かに語る。
「暴力は好みませんが、よってたかって老人ひとりいびり殺すってぇのは、もっといただけませんね
欲しけりゃあゲンコツでおいでなさい」
そして一斉におそいかかる暴力団員たちに、倉本駆馬は右手を広げて、悲しげにつぶやく。
「野暮でござんす」
この程度の雨なら――
場面は暗転し、ポツポツと雨が降り始めたことを知らせる街頭の、その下、倉本駆馬は持ってきた和傘を広げようと取り出し、見つめ、そして身を翻す。
「いいか…この程度の雨なら、」
あくまで静かに、泰然とする彼とは対照的に、響き渡るファンファンと言うサイレンの音、倒れて血だらけになっている暴力団員に、警察官たちが殺到していると修羅場だった。
そして倉本駆馬は傘をささず、そのまま手に持ち、その場を去る。
一言だけ言い残して。
「濡れるのも風情だ」
この1シーン。
様々な物語を見てきたが、ここまで1シーンが印象に残っている漫画も、珍しいと言える。
これ以来、私はパラパラとしたにわか雨が降るときに、多少肩が濡れる程度だったら、この場面を思い出す。
濡れないために傘をさすのではなく、不快にならないために差すのだから、不快にならないならば濡れるのもまた風情。
むしろ雨をその体で感じることで、その季節を感じ、そこに人生の哀愁を覚えることすらできる。
自然に流されるのではなく、自然に左右されるのではなく、あくまで自然を自分のその目的に合わせて対応する。
そんな、まさしく粋な行き方を教えてくれた。
おそらくはこれから先も、にわか雨に遭遇するために、思い出すことだろう。
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