Ⅵ/夕餉の宣誓②

2019年10月18日

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 その素直な言葉に、男たちは一斉に息を吐く。
 やっぱりか、という落胆というか安心というか。

 それに強張っていたレックスも気を緩め、

「ほ、ほら見ろ。やっぱりなんだかんだ言っても、世界をどうとかとか……」

「でも、変えなくてはいけないんです」

 アレの視線も口調も、僅かにも変わってはいなかった。

「わたしは、契約した。この命を捧げると。だからわたしはすべてを捨ててでも、世界を変えなければいけない」

 デジャヴ、いや違う。以前も聞いたこのフレーズだったが、その真意は――

「け、契約って、なんだよ? お前、誰とそんなもんしたんだよ?」

 すっかり相手役になったレックスの言葉にアレは瞼を閉じ、

「――神様と」

『……………………はぁ?』

 突然の言葉に、レックスだけでなくその場にいた全員が、同時に間抜けな声を出した。

 しかしベトだけは、なぜかリンクしてしまった。
 今までの彼女の言動と心の内を、聞いていたから。
 直接神だなんだと聞いたわけではない。
 しかし――

「わたしの身は、既に死んでいる。あの時、殺されている。生きながらえたのは、使命があるから。そのためだけに、生きる。たといどんな不条理が、無理難題が待ち受けていようが、関係ない。それがわたしの、使命だから」

 我が身、顧みない。

 ただその身その命、使命のためだけに。

『――――』

 みな、それに感動していた。
 いや最初は動揺していたのだが、そして普通そんな言葉を聞けば疑惑も湧きそうなものなのだが、アレのあまりに真っ直ぐで、疑いを知らない姿勢、態度に、誰もが引きこまれ、そしてそれをなんの力も持たず、肉親を殺されたばかりの少女が語っているという事実が、みなに感動をもたらしている要因だった。

「そ、それで今日剣を……?」

「ベトに、教わってました。でも、ぜんぜんうまく出来ません。ダメですね、へへ」





 そこで年相応に、にこっと微笑んだ。
 それにもう、みんな骨抜きだった。

「わ、わしで良ければなんでも教えるよ、なんでも聞いてくれ!」
「スバルのおっさんはエロいこと教えるだけでしょ! お、俺が手伝うよなんでも!」
「おれを頼ってくれよ、頼むから、頼むからさ……!」

 もうどっちがどっちなのかわからない言葉たちの羅列。
 それにアレは少し、というかかなり困った表情で笑顔を返すだけだった。

 そんな周囲を、ベトはどうともつかない表情で見つめていた。




 夜、眠りにつく。
 住み慣れた部屋。
 これでこのアジトでの暮らしも、四年を数えた。
 終わりの見えない、泥沼の戦争。
 別に不満も疑問もない。
 殺し合いたい同士、好きなだけ殺し合えばいいと思う。
 自分は金さえ頂ければ、好きなだけ殺そう。

 ただ、あの娘は言った。

「それが悲しい、ね……」

 呟いてみた。
 床についたあとになにかを考え、ましてや呟くだなんて、ずいぶん無いことだった。
 だからその無駄が、新鮮だった。

 無駄は嫌いだった。
 無駄を省いて、ただ生きてきた。
 生きるために無駄な動きを省き、ただ殺してきた。
 生きるとは、人間とはそういうものだった。

 なんなんだ、あの娘は。
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