Ⅷ/夕餉の宣誓②
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本編
その素直な言葉に、男たちは一斉に息を吐く。
やっぱりか、という落胆というか安心というか。
それに強張っていたレックスも気を緩め、
「ほ、ほら見ろ。やっぱりなんだかんだ言っても、世界をどうとかとか……」
「でも、変えなくてはいけないんです」
アレの視線も口調も、僅かにも変わってはいなかった。
「わたしは、契約した。この命を捧げると。だからわたしはすべてを捨ててでも、世界を変えなければいけない」
デジャヴ、いや違う。以前も聞いたこのフレーズだったが、その真意は――
「け、契約って、なんだよ? お前、誰とそんなもんしたんだよ?」
すっかり相手役になったレックスの言葉にアレは瞼を閉じ、
「――神様と」
『……………………はぁ?』
突然の言葉に、レックスだけでなくその場にいた全員が、同時に間抜けな声を出した。
しかしベトだけは、なぜかリンクしてしまった。
今までの彼女の言動と心の内を、聞いていたから。
直接神だなんだと聞いたわけではない。
しかし――
「わたしの身は、既に死んでいる。あの時、殺されている。生きながらえたのは、使命があるから。そのためだけに、生きる。たといどんな不条理が、無理難題が待ち受けていようが、関係ない。それがわたしの、使命だから」
我が身、顧みない。
ただその身その命、使命のためだけに。
『――――』
みな、それに感動していた。
いや最初は動揺していたのだが、そして普通そんな言葉を聞けば疑惑も湧きそうなものなのだが、アレのあまりに真っ直ぐで、疑いを知らない姿勢、態度に、誰もが引きこまれ、そしてそれをなんの力も持たず、肉親を殺されたばかりの少女が語っているという事実が、みなに感動をもたらしている要因だった。
「そ、それで今日剣を……?」
「ベトに、教わってました。でも、ぜんぜんうまく出来ません。ダメですね、へへ」
そこで年相応に、にこっと微笑んだ。
それにもう、みんな骨抜きだった。
「わ、わしで良ければなんでも教えるよ、なんでも聞いてくれ!」
「スバルのおっさんはエロいこと教えるだけでしょ! お、俺が手伝うよなんでも!」
「おれを頼ってくれよ、頼むから、頼むからさ……!」
もうどっちがどっちなのかわからない言葉たちの羅列。
それにアレは少し、というかかなり困った表情で笑顔を返すだけだった。
そんな周囲を、ベトはどうともつかない表情で見つめていた。
夜、眠りにつく。
住み慣れた部屋。
これでこのアジトでの暮らしも、四年を数えた。
終わりの見えない、泥沼の戦争。
別に不満も疑問もない。
殺し合いたい同士、好きなだけ殺し合えばいいと思う。
自分は金さえ頂ければ、好きなだけ殺そう。
ただ、あの娘は言った。
「それが悲しい、ね……」
呟いてみた。
床についたあとになにかを考え、ましてや呟くだなんて、ずいぶん無いことだった。
だからその無駄が、新鮮だった。
無駄は嫌いだった。
無駄を省いて、ただ生きてきた。
生きるために無駄な動きを省き、ただ殺してきた。
生きるとは、人間とはそういうものだった。
なんなんだ、あの娘は。
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