Ⅷ/ベトの離脱①

2019年11月16日

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 女だてらによくやって――というか、ベッドから出てきたことがないってのに、まったくもって頭が下がる。

 ――それも世界を変えるとかいう、目的のためだっていうんだろ?

 ベトは胸中で、呟いた。
 感心していた。
 素直に。
 そういうところには。

 だけど心許すまでには、どうしても至れない。
 どうしても、理解できない所が多すぎる。

「……しゃあねぇ。予定を切り上げるか」

 一言だけ残し、ベトもスバルと同じように無駄に広い部隊長室をあとにした。


 スバルにだけ一言残して、ベトはアジトをあとにした。

 なんでもしばらくしたらこのアジトは引き払って移動するという話だから、あまり遅くなるなという話だった。
 それにベトは一応留意し、移動含め滞在期間を四日と決めた。

 一人、山道を歩く。
 なんとかギリギリけもの道ではないが、ほとんど人が通らないような道だった。
 さもありなん、交戦中の区域の山など盗賊、敵兵、騎士崩れなんでもござれの無法地帯だから、こうして一人歩く方がどうかしていた。

 どうかしている。

 そのなんでもない筈の単語が、ベトの胸を打った。

「……ったく、それこそどうかしてるよな?」

 質問形式のそれは、誰に向けた言葉なのか。
 ベトは黙々と歩きながら、考える。

 今日はおそらく、途中の山で野宿となるだろう。
 太陽が西の空に、徐々に沈んでいくのが見える。

 単独行動は嫌いではなかったが、それにしてもやはりベッドで眠れないというのはあまり喜ばしいものではなかった。
 まぁ、仕方ないが。


 向かっているのは、エルシナから20キロほど離れた盆地にある、ハントスという街だった。
 王都からは離れた場所にありそれほど栄えているというわけではないが、しかしこのレイティア国で一番の規模を誇る聖堂を有していることで有名な街だった。

 名は、サミオール大聖堂。
 ベトの用事は、そこにあった。

「もう、二年前になるのか……」

 ベトは呟き、焚火をくべた。
 パチパチ、と火花が散る音が耳に届く。山では火が、一番身を守ってくれる。

 獣は無意識に、火を恐れる生き物だからだ。
 だから火さえ絶やさなければ、それほど恐れるものではない。

 マントを毛布代わりに身体に巻き付け、大きな枯れ木の幹の上に、横になる。
 まるで団子虫にでもなったような気分。

 山と、一体化しているような。
 空を仰ぐと、満点の星空。

 これだけが、唯一の利点だった。
 楽しみ、と言った方が近いだろう。

 しかしそれも、一瞬。
 宝石箱を散らしたよう、といえば聞こえもいいが――宝石をいつまでも眺めているような趣味は、ベトにはない。

 瞼を閉じる。
 そして思いを馳せる。

 二年ぶりのエルシナ。
 信仰心がそれほどではないベトをして、あの大聖堂と、神父と交わした会話は興味をそそられた。
 果たして二年ぶりに自分が行くことで、どうなるのか。

「――どうもなんないかもしんねーが」

 あごひげをジョリ、と触り、ベトはそのまま眠りについた。


 翌朝は、五時に目覚めた。
 もちろんベト自身狙ってその時間に起きたわけではなく、感覚で、だ。

 これ以上早いと足元が見えないし、遅いと移動距離が短くなるという、絶妙な時間帯だ。
 歩き始めてからしばらくして、懐中時計を見て、確認した。

 これも、サミオール大聖堂で受け取ったものだった。
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