Ⅵ/夕餉の宣誓①

2019年11月22日

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 そして深々と、頭を下げる。

 それに全員、ぽかんと口を開けていた。反応のしようもない。
 だいたいが、考えたこともないような考えだった。
 だからそもそもが理解し脳味噌が租借するのに、かなりの時間が必要だった。
 傭兵だし、あんまり頭使うことも少ないし。

「……嬢ちゃん、それでなんで世の中を変えるになるんだい?」

 最初に質問まで漕ぎつけたのは、二度までもベトにガントレットでアバラ骨を打ち抜かれのたうち回っていた、スバルだった。
 すぐに返答が来ないアレにさらに、

「仇とか、討ちたくないんか? 悔しいだろ? なんならわしがこれからちょちょいと、殺してきてやろうか?」

 スバルの独特の言い回しに、固まっていた仲間たちから笑いが巻き起こる。
 任せろ任せろと、力こぶまで作っている男までいる。
 和やかな雰囲気に、戻りかけていた。

「討ちたくないです。それにベトに、もう彼は殺されました」

 しかしアレは、表情も口調も一ミリも変わらなかった。
 それに緩和しかけた空気は、再び硬化する。

 そしてアレは、ベトを見る。
 それにベトは少し、気圧される。

「ベトも、悲しいと思っている」

「……は? んだよ、それ」





 突然決めつけられ、ベトは憤慨の声を漏らす。
 少し、目線をそらしながら。

 アレの視線があまりに真っ直ぐで、透き通ったものだったから。
 アレはそれに、寂しそうな笑みを漏らす。

「ベトには、感謝してる。あと少し来てくれるのが遅かったら、わたしは死んでます。だけど、ベトにだって殺して欲しくはなかった。その人だって、生きてた。そしてきっと、こんな世の中じゃなかったら、そんなことをしなかった。だからわたしは――そんなどうしようもない、悲しい世界を、変えたい」

『…………』

 一同、ようやくアレの言いたかったことを理解した。
 そして、その迫力に圧倒され、巻き込まれていた。

 男の中に女の子がひとりだというのに物怖じすることなく淡々と、それは感情を超越した高い、まるで神の視線からの意見を紡ぐようなその姿に。

「……どう変えるってんだよ」

 ひとつ、意見が飛んだ。
 しかしそれは質問というより、反発に近いモノだった。

 それに、一斉に続く。

「そ、そうだ。俺たちだってこんなその日暮らしは嫌だ。だけど、どうしようもない」
「そうだ、戦争なんだ。食べ物がないんだ」
「他にろくな職はない。男はこうして、生きていくしかない」
「お前のそれは、女子供の夢物語だ!」

 最後に強い言葉が、アレをたしなめようとした。
 言い放った男レックスはかぶりつき、鋭い目で睨みつける。

 しかしアレはあくまで冷然と、

「夢を、語ってはいけないのですか?」

「現実を見ろって言ってんだ! ヤらなきゃ、ヤられるんだ! 悲しいとか――」

「悲しくはないんですか?」

「っ……!」

 レックスが、言葉に詰まる。
 それは図星を突かれているに他ならなかった。
 レックスはそれにますます顔を強張らせ、

「だ、だからなんだってんだ! お前に、世界が変えられんのかって聞いてんだ!?」

「変えられるかどうかは、わかりません」
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