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ⅩⅣ/悪魔憑き⑤

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 激しい叱責が、白々しい森に響き渡る。
 マテロフは興奮冷めやらぬまま激しく息を乱し、アレはそれを呆然と見つめていた。

 やがて、口を開く。

「助けて、っテ……どういうことデスか?」

 惚けているような感じなどない真摯な問いかけに、マテロフは挑むように少女を見た。

 その前に血がにじむほど、唇を噛み。
 決して誰にも、聞かせるつもりなどなかった話を。

「わた、しの村は……野盗に襲われたのよッ!!」

 ああ――とアレは思った。

 この女(ひと)は、自分と同じなのだと。
 自分と同じ経緯で、こうして同じ場所に立っているのだと。

 そんなことには気づかずマテロフは、

「その時母に父に祖母に祖父に弟に村のみんな、みんな……みんな全部、殺されたわっ! わたしはその時11歳で、それで……男たちの慰みモノに――!」

「待っテ」

 その言葉を、アレは言葉で止めた。

 いや、止めようとした。
 しかしマテロフはそれに一瞬だけ呆気にとられたものの、

「な……なによ! 私の話は聞けないっていうの!? それとも同情? 冗談じゃない、そんなもの要らないわ! そんな役に立たないものより、現実を変えてよ! 私が失ったすべてを、返し、て――」

 そこで初めて本当に、マテロフは止まった。

 止められた。
 少女が流す、一筋の涙に。

「……なによ。同情、なら……」

 言葉は続きはしなかった。

 アレが流しているのは、左目からたったの一筋だけ。
 潤んで溢れて零れ落ちるそれとは違い、まるで線のように唐突に。

 だからその清々しさに、瞳を奪われた。
 これが魔女の魔術なのかと、疑うように。

「……かなしイ」

 心すら凍結させるような、その言葉。
 それはベトに放ったものと同種のものだった。

 あらゆる意図がない、純粋な感情の結晶。
 それをぶつけられたものは、ただ心奪われるしかった。
 その濃密さ、温度の低さに。

 アレは宙を見て、ただ訥々と語る。

「貴女モ、哀しかったんデスね……アア……世界は、哀しい。

 かなしい」

 三度目の、感情の発露。

 同時に世界に、吹雪が発現した。


「!?」

 叩きつけるような風と、同時に舞い散る雪の結晶たち。
 それにマテロフは、目を瞬かせる。
 こんな現象は、見たことがない。

 剣を弾き飛ばすどころじゃない。
 攻撃を防ぐどころじゃない。
 身体を引っ張るどころじゃない。

 自然現象すら、その手に在るというのか。

 それは妖しい魔術どころの話ではなく、それこそ伝説にきく魔法の所業ではないか?

「あな、た……」

 言葉をなくす。
 それと同時、マテロフはいきなり降ろされた。
 すとん、と両足が地面につく。
 解放されたのは、いったいなんのためか?

 少女の顔を、盗み見る。
 少女は透明な涙を、両眼から零していた。

 まるで人形のように無駄なく、一本の線として。
 根拠はない。
 そういう趣味も、嗜好ない。

 だけどその無駄のない在り方を、マテロフは一瞬美しいと、感じてしまった。

「……泣いてるの?」

 理解不能の思考も奇妙な喋り方も不可視の力も突然の吹雪も、頭から吹き飛んでいた。
 ただ自分の話を聞いて、嘲笑も説教も同情もなくただただ哀しいと、美しい涙をこぼす目の前の少女に声をかけたくて、たまらなくなっていた。

 理由など、わからない。
 理由など見当たらなかったが、ただただそう、思った。

「かなシい……そうとシカ、言えなイ。そんなワタしが哀しイし、マテロフさんガ哀しクテ……」

「……私も、かなしいって?」

 奇妙な言葉だった。
 あなたはかなしい人ね、ならわかる。
 そういう同情の言葉は聞き飽きてきた。
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