ⅩⅩⅥ/叶えられない願い③

2020年10月8日

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目次

本編

 それに気分が悪くなりながらも、ベトは努めて傭兵然に気軽に言葉を紡ぐ。

「へぇ、なにがわかってないっていうんだ? それはこんな小汚ぇ傭兵のオレにも、理解させていただけるものなのかねぇ?」

 実にその場に集結したうちの三分の二にも及ぶ27名をも斬り殺しておいて悠々とした態度のベトを、残った兵と20名近くの貴族たちは、苦々しく見つめていた。
 王が自ら言葉をお話になられているなか、それを邪魔にするわけにもいかない。

 ベトの目の前で槍斧(ハルバート)を構える隊長格の大男ルベラータもまた、それは同様だった。

「簡単な話よ。王がいなければ、民は迷う。そして王は、王の器がある者にしか行えん」

「王の器だァ?」

「そうよ。貴様のように感情で動いては、国の行き先はどこに向かう?」

 一瞬、ベトは論破されそうな予感を覚えた。

 それになんとか、穴を探した。

「……それが、破滅の道でもかよ? あぁ?」

「この戦争のことを言っておるのか?」

「そうだ! てめぇの勝手な考えで、いったいどれだけの人が死に、飯も食えない生活を強いられて――」

「ならばこの戦争をしなければよいか? ハッ、子供の理屈だな。反吐が出る。余と話す資格もない下賤の者よ」

「ッ……なにがだっ! 言え、ハッキリと言いやがれ! てめぇはこの戦争で、いったいなにを――」

「戦わなければ生きていけぬだろう?」

 まるで試すような、舐めるような口調に、ベトは背筋を舐められたような錯覚を覚えた。

「な、なにを言って……」

「貴様に、なにが出来る? それだけの腕だ、ほぼ人生のすべてを剣に懸けてきたのだろう? つまり貴様の価値は、人を殺すというその一点に集中しているというわけだ。

 ならばこの戦争が終わったら、どう生きるかな?」

 殺すしか能が無い。

 それは、ずっと当たり前に思っていたことだった。
 生きることは、殺すことだった。
 生まれた時から、そうやって生きてきて、疑問に思うことすらなかった。

 だが、それを奪われたら?





「考えたことはなかったか? だが、それだけではない。余が攻めずとも、他国は攻め込んでくる。特にいま交戦中のグラードは、余の国の貴重な資源である鉄鋼を狙っておる。結果として余が戦いをやめれば、それは他国にその権利を奪われるであろう。わかるか? わからぬだろうな。所詮民は、その場の暮らししか考えておらぬものよ。そんな身で余に意見しようとは、片腹痛いわ。消えろ。消えて、余に詫びるがよい」

「……なーるほどな。だからオレたちゃ、ろくな生活送れねぇわけだ」

 そしてベトは、エリオム十四世の言葉にようやく納得していた。

 その言葉にエリオム十四世は、眉をひそめる。

「……なにを言っておる、下々の者?」

 ベトは肩をすくめ、

「いーや? ただ単によ、やっぱ戦争を地図の上で見てる奴は考え方が違うなって思ってよ。ていうより甘ぇ? 狂ってる? どっちでもいいけどよ、頭もいいけどたまには身体も使った方がいいぜ?」

 膝をつき、立ち上がった。
 身体の回復具合は、3から4割といったところか?
 問題は折れたアバラ骨だが、まぁ騙し騙しやるか。
 全身の斬り傷は、もう数え切れないくらいだしな。

「……貴様、余を愚弄しておるのか?」

 お。
 初めて、感情らしい感情を見せやがったな?

 ベトは怒りを向けられて、心地いい気持ちさえした。
 悪意に対しては、十二分に慣れている。
 むしろアレみたいな根拠のない好意の方が、戸惑ってしまっていた。

「愚弄してねぇよ。ただ王さんさまが、実際生き死に懸けてるやつの気持ちも考えてねぇって思ったら、ちっとイラっとしたってだけさ」

 剣を、持ち上げる。
 ズキン、とアバラに痛みが走るが無視して、さらには普段より重く感じるが、なんとか肩に、乗せる。

 いつものニヤケ面を、王に向ける。

「……いつも生きるとか死ぬとか、ンなこと考えたこたァねぇんだろ? だからンな理屈でモノ言えンだよ。ちったァそういう経験してから――頭使いやがれやッ!」

 地を蹴る。
 泣きじゃくり、膝をつきぼんやりとこちらを見上げる、アレを残して。 
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