Ⅴ/傭兵の生活③

2019年11月9日

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 一度上げるまでが、五秒。
 そして落とし足首の前の定位置で止めて反動の震えが収まるまでやっぱり五秒。
 そして次の起動までが、五秒。

 一回振るのに合計十五秒。

 回数はベトがちょうど400超えた時点で、22回。

 文字通り頭からバケツでも被ったように、アレは汗びっしょりになっていた。
 家にいた時から着ている白いローブはべっとりと肌に張り付き、足元の地面には軽く水溜りまで出来ていた。
 それによって滑って取り落としそうになる柄を満身の力で握りしめ、アレは目に力を込めて霞む視界の中剣を振り続けていた。
 既に掌にはいくつもの豆が出来て、そして潰れて、血だらけになっていた。

 こんな重いモノを、アレは持ったことがなかった。
 いわんや振るなど、考えたこともない。

 だけど振った。
 一心不乱に。

 それはただ、世界を変えたい一心で。

 そこに、周りで模擬試合をやっていた傭兵仲間が声をかけてくる。

「おいおい、なにやらせてんだよベト? 娼婦に剣振らすなんて、お前マゾかよ?」

「うるっせぇな、別にプレイのためじゃねぇよ」

 ギャハハと爆笑する仲間を、ベトは軽く笑って流していた。

 それにアレは朦朧とする意識の中、なんだろう? と思っていた。

 なんだろう、と思っていた。

 自分はこんなわけがわからない場所でわけがわからない人間に囲まれわけがわからない金属の塊を持たされわけがわからないまま汗をびっしょりと流し、息を切らしている。
 なんだろう、この状況は?
 理由が、朧だった。
 こうしてこうやって苦しい思いをしている理由が、思い出せなかった。

 苦しい、辛い、止めたい。
 だけど手は、剣を振り続けている。

 なぜだろう?





 苦しい。
 苦しかった。
 周囲の音が消えていく。
 手の感覚すらなくなっていく。

 視界が、真っ白になる。

 助けて、という声が、聞こえる。


「――――」


 極限状態で、アレの集中力は限界まで高まっていた。
 それに、今見ている景色が薄くなり、フラッシュバックする過去の景色と、混濁していた。

 剣を振り上げ、下ろす。

 相手に向かって。そこには何の罪もない、子供。
 ただお腹が空いて、でもお母さんがいなくて、だからどうしようもなくてお店から取っただけなのだ。
 悪いことをするつもりなんて、なかったのに。

 なのにパンは取り上げられ、代わりに無慈悲な拳を受けていた。
 だけど自分には、どうすることも出来ない。
 その瞳は、みなに叫んでいた。

 悲鳴を上げていた。

 苦しい。

 助けて。

 誰か、助けてと。

 助けてあげたかった。

 また、暴力が振りおろされた。
 それに子供は地に叩きつけられ、動かなくなる。

 動かなくなる。

 さっきまであんなに、元気だった子供が。

 動かなくなった。
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