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2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 あれだけされて。

 倒れて、鼻血を出して、呻いて甘ちゃん扱いされ、家に帰れといわれ、立ち上がりなおブタれ酷い有様になってなお、この深窓の令嬢は戯言を吐く。

 ギリ、と歯を噛む。

「……知らないことをしることが、世界を変えるために?」

「必要なんです。わたしはなんにも知らないから、剣を振ってもきっとダメだから、歩けないし何も出来ないし小娘だし甘いから、このままじゃきっと何もできず成せずひょっとすると男たちの慰みモノになって死んでしまうから、わたしは、知りた――知らなくては、いけないんです」

「――ムカつくわ」

 悪態が、出てしまう。
 なんとか理性で拳を振るうのだけは、押しとどめる。

 それではフェアじゃない。
 この目の前の御令嬢は、自身の無知も無力も無謀も全部が全部承知の上で、ここに立っているのだから。

 諭すような暴力は、ただ一方的なだけだった。

「なんなの、貴女? 出来る出来ないで、割り切らないと、生きていけないでしょう? 言ってること、滅茶苦茶よ? 自分でわかってるの、そこんところ?」

「わかってますよ、自分のめちゃくちゃさは」

 えへ、と男なら100%骨抜きになりそうな微笑みに、マテロフの額に青筋が浮かぶ。

「……本気で話す気が無いの?」

「わたしは、本気です」

 笑顔が、ブレない。
 底が知れない。

 初めてマテロフは、そう思った。

 これは深窓の令嬢なんかじゃない。
 間違いなく敵で、しかも手ごわい部類に入る。

 マテロフは頭のスイッチを、入れ直した。

「貴女に、なにが出来るっていうの?」


「なにも出来ません」

「なら世界なんて変えられないでしょう」

「できるできないじゃなく、変えるんです。変えなくてはいけないんです」

「出来る出来ないなのよ、世界は」

「出来る出来ないじゃないんです、実際は」

 押し問答が続く。
 マテロフは憮然を装いながらも、少しづつ気持ちが押されていくのを感じた。

 なにしろ目の前の少女は、僅かにも表情も動作も変化が無い。
 しかしなおも気持ちを奮い立たせる。

 信じない、そんなものは。

「――じゃあ、なんだっていうのよ。変えなくてはいけないと、変えられるとでもいうの?」

「変えられるんじゃなく、変えるんです」

 言葉遊びか。

「……話す気があるのかって聞いたんだけど」

「話してるじゃないですか」

「私、子供と話す言葉は持ってないんだけど」

「むずかしいですね」

「っ! いい加減にしなさいっ!!」

 遂に、マテロフは激昂してしまった。

 アレの襟首を掴み、持ち上げる。
 暴力に訴えるという事は、言葉では負けたという証明に他ならなくなってしまう。
 だがそれでも、マテロフはこの方法を選んだ。

 不公平だと、知りながら――

「見なさい! こうして掴まれ吊るされるだけで、貴女に出来ることはもうないでしょう? 認めなさい、無理は無理だと! この世の中は、みなに公平には出来てないのよ!!」

 叫び、マテロフはもの凄まじい形相でアレを睨みつけた。
 それは最初に馬車で一緒した時からは考えられない変貌だった。

 なんて激しい人だろう、とアレは上の空で思っていた。
 そして一言、言葉を告げた。

「こーへー、って?」

 マテロフは、固まった。
 あれだけの言葉も、蛮行も、一瞬で終わった。

 その一言は、マテロフの心臓を打ち抜いた。

 もちろん当人は、それに気づかない。

「こーへーって、なんですか? そんなもの、あるんですか? こーへーだったら、男の子は殴られずに済んだんですか? こーへーだったら、おばあさんは殺されずに済んだんですか? こーへーだったら、わたしは歩けたんですか?

 こーへーだったら、世界は変えられるんですか?」
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