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Ⅶ/傭兵の生活④

2020年10月9日

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 動かない手足。
 動かなくなった子供。
 届かない、窓の外の世界。

 手を伸ばしたい。
 そして、救ってあげたい。

 子供が救われない世界なんて、本当は嫌だった。

 でも、動けない。
 わたし自身が、おばあさんに助けてもらっている。

 変える気もなければ変えられるとも思えないしそもそも変えるという概念すら持ち合わせていなかったわたしはそんな風に思う資格すら本当を言えばなかったのだろう。

 それでも、そんな自分でも――心の奥底で、小石と小石が波にさらわれて偶発的にぶつかるように、思っていた。

 助けたい。

 この身、たといこの命、捧げてでも――



 ずっとアレに軽口を叩きニヤニヤしていたベトだったが、徐々にアレの反応は薄くなっていき、そして遂には無くなってしまっていた。

 限界にきたのだろう。
 しかし一応、剣は振り続けている。

 ベトは止めるでもなく、周囲に視線を彷徨わせた。
 単純に飽きたし、世界を変えるなんてのたまうからにはこれぐらいはやってもらわないと。

 ベトの目の前で、二人の傭兵仲間が模擬試合をしていた。
 カン、カン、と木製の棒で打ち合い、そして一方が一方を打ちのめした。

 倒れる。
 そして棒を突きつけられる。
 両手を上げる。降参の意だ。

 模擬試合とはいえ、戦いを見ることをベトは好ましく思っていた。
 戦いはいいシンプルだ。
 どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
 勝った方がよく、負けた方が悪い。

 わかりやすい。
 そして自分の人生は、そのわかりやすい中で行われてきた。

「へへ、俺の勝ちだな」

 勝った方が、負けた方に手を差し伸べる。
 負けた方は殴られた頭をさすり、

「いたた、やられたぜ……って、おい?」

 そして、それは何の前触れもなく訪れた。

「う……ぐぐ、ぐぅえ……!」

 突然。





 なんの前触れもなく、勝者が苦しみ出した。

 首を抑えて、息が出来ないかのように。
 それに敗者と、そしてベトも眉をひそめる。

 冗談か? にしては、やたらと迫真に迫る演技のように見える。

 顔を真っ赤にして、口の端から泡をこぼして――

「っておいおい……なんだぁ、こりゃあ!?」

 思わずベトは、叫んでいた。
 それに周囲の視線が集まり、そして動揺に口々に叫び声を漏らしていた。

 敗者はその場に、へたり込んでいた。
 今や鍛錬場全体の視線が、勝者のただひとりに注がれていた。

 その足が、宙に浮いている。

「な……っ」

 言葉を失う。
 それはまるで、男が見えない透明な巨人に首を掴まれ、持ち上げられているような、そんな錯覚を起こしてしまいそうな光景だった。

 それはつまり、在り得ない光景だった。

 大の男ひとりが、なんの力もかけられずに宙に浮かぶなんて事態が。

「が、ぐ、は……っ」

 しかしだからといって、そんな悠長に眺めていられる事態でもなかった。
 浮かんでいる男の顔が、どんどん赤から紫色に変わっていく。
 酸素が、失われているのだ。

 それに驚くのを後回しにして、ベトは考える。
 仲間の一人が、男の足に手を伸ばして、引っ張る。
 なんとか地面に下ろそうとしているのだ。
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