Ⅵ/急襲⑥

2019年11月22日

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 答えない。
 安易には。
 というか、自覚している。
 自身の無知さを、無力を、自分、自身を。
 それは、痛いほどに。

 その上で、出てきている。

 理解して、利口になって、何もしないことで――得ることなど何もないと、理解している。

 なんだ、これは?

「……それ、」

 新たな問いを口にしようとしたが、出来なかった。
 どう考えても、ない。
 そもそも思考方法が、自分とは決定的に違っている。
 なら、今までの自分の考えで理解しようとしても、出来ない。

 持て余している。

「――――」

 ベトは沈黙した。
 そこで、理解したから。
 今まで自分が、この娘を飼っているようなつもりでいたが、その実内情も把握していないし、その行動を規制することすらも出来ていなかったことを。

「あんたは――」

「お、おいベトっ!」

 その時だった。
 唐突に切羽詰まった声が、ベトにかけられたのは。

 声に、振り返る。

 目の前に、矢が浮かんできていた。

「――――」

「――――」

 声を出す暇すら、ない。
 狙いはおあつらえ向けに、左胸。
 心臓。
 終わった。
 もうこの運命から、逃げようがない。

 もう、よけられない。


 自分の死が、確定してしまった。

 余計なことを、考えていたせいだった。
 アレに気を取られたせいだった。
 一瞬の迷いがすべてを分ける戦場で、どれだけの時を無駄に過ごしたのか? 
 当然といえば、当然の結果だった。

 だが、今まで自分が生きるために散々敵の命を奪ってきた結果としてこうして戦場で野たれ死ぬことに、不満などあろうはずもなかった。
 わかっていた。
 自分がいつかこういう末路を迎えることは。

 殺した。
 殺した。
 何人も、何十人も。
 それも、惨たらしく。
 一番悔いが、残る形で。

 その瞳が、見ていた。
 胴と離されても、自分を見つめていた。
 呪ってやるとすら思えなかった、その瞳が物語っていた。
 次は、お前だと。

 否、次は俺だと。
 そんなことは、わかりきっていた。
 許されるわけもないを先回りして、許されるつもりだってなかった。

 生きるために必要だった。
 それは事実だった。
 偽りようもない。
 他の生き方を知らないし、することもできない。
 だけどだからって許されようだなんて微塵も思っちゃいなかった。

 死ぬのなら、呆気なく。
 もっとも惨めで、惨たらしく。
 もっとも悔いが、残る形で。

 死ぬ時の条件は、これだけだった。
 そしてこの矢は、その条件を見事に満たしていた。

 戦場の真ん中で拾った女と口論してる間に仲間の呼び掛けの声に振り返ったためちょうど心臓に突き刺さり、モノ考える暇もなく、死ぬ。

 上等だとすら、思った。
 ベトは心静かに、受け入れる。
 何百分の一秒で、瞳を閉じた。
 残す言葉すら、自分にはない。

 ただ、アレのこの先が見れないことだけが、残念だった。

 べきん、という物凄い音がした。
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