あの日のその後⑧

2019年11月9日

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 上芝(かみしば)大学のゼミの制度では自分のゼミが合わないと感じた場合、一度のみ、他のゼミに移る事を認めている。だが、実際に移る人はなかなかいないの現状で、一つのゼミに一人か二人移ってくる程度だ。

 僕たちのゼミの場合、それが美香だった。僕はまたしても一目惚れした。
 ショートの黒髪と、見ているだけで場が和むような柔らかな笑顔が特徴的な、かわいい女の子だった。

 まぁ、正直この頃からだんだんと自分の惚れっぽさは理解してきてはいた。
 たったの半年の間に、三人。
 それもすべて一目惚れ。

 自分でも多分、そもそも女性に対する免疫がないんだろうな、とか思って……いなかっただろう。
 振られたあとだからこそ、こんな冷静な分析が出来ているのだ。
 熱を上げている最中は、本当に周りが見えていなかったように思う。

 頑張った。

 変わったばかりのゼミでわからないことは積極的に教えてあげて、校内で会えば挨拶をし、時間があれば軽く立ち話くらいはして、三人目にして初めて携帯番号とアドレスを交換した。
 でも、そこまでだった。

 電話をしてもメールをしてもやはり話は続かず、連絡をとればとるほど気まずくなって、彼女との距離は開いていった。
 隼人にも切間にも相談してみたが、話題がない、ということと、女の子慣れしていないというは想像以上に大きな壁となって僕の前に立ち塞がった。

 話をしても盛り上がらない。

 当然デートに誘うことなんて出来ようもなかった。

 今日の玉砕は飲みの最中という、僕自身だって無謀だとそりゃ充分にわかっているシチュエーションだった。
 でも、僕には他に二人きりになれる機会を作ることが出来なかった。
 だから、仕方ないとえば、仕方なかった。


 ――細く細く、息を吐く。





 寒い外気に晒されたそれが、まるで煙草の煙のように空に昇っていく。
 この辺の空は広くて、星もよく見える。
 空を見上げて、気持ちを切り替えようと思う。何しろ――

 じゃり、と靴で砂を噛んで、足を止める。

 上げていた視線を下げて、左にある空間に目をやる。
 そこには石造りの玄関柱と、表札が一つ。

『白柳』

 足を踏み入れた。
 芝生の上にある石畳の上をしばらく歩いているうちに、道場生の掛け声が聞こえてきた。

 今日もやってる。
 携帯をポケットから取り出す。

 時刻は七時半。
 一時間近く遅れたが、これなら充分稽古できるだろう。
 それに、自分の場合は遅れてでも来る価値がある。

 母屋に玄関から入り、トートバッグを部屋に置いてスーツをハンガーに掛けて道着に着替える。
 もう三年も着てる、少し色が変色した、でも柔らかい動きやすい道着だ。
 もちろん色は白で、胸にこう書かれている。

 白柳空手<
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