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第20話「真夜中の街灯」

2020年10月8日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 黒帯を引っつかみ、素早く腰に結んで階下に下り、裏の勝手口から離れの道場に向かった。
 直接着た道着が肌寒い。
 サンダルに足を突っ込み、玄関から母屋までと同じような芝生の上の石畳を通って、引き戸のサッシを引いた。

 喧騒が耳を打つ。
 道場の中にはすっかり熱気が篭もっていた。
 一月とは思えない暑さを感じる。

 コンクリート剥き出しの玄関で靴を脱ぎ、木製の履物入れに放り込み、木目だらけの道場に足を踏み入れた。
 右手の更衣室は素通りし、手前の折りたたみ式テーブルの上の出席簿の自分の名前の今日の日付の欄に印をつけ、押忍、と挨拶して背中を向けて正座をした。
 しらばくののち、「入っていいぞ!」というとうさんの声が飛んできて、それに押忍と答えて中に入った。

 そうして僕は、女の子に振られた今日も空手の稽古を始めた。

 一般の稽古が終わる八時半。僕は一旦道場を離れて近くの自販機にポカリを買いに行った。
 別に毎回毎回飲んでるわけじゃないが、飲みたくなる時もある。
 それにスポーツドリンクだから実際普通に飲むよりもミネラルを取る分には向いている。

 実際とうさんも推奨している。ただ、その場合は水で二倍に薄めるといいそうだ。
 市販のものは糖分を加えすぎているそうだから。

 道着姿のまま、サンダルをつっかけてスポーツタオルを首にかけて外に出た。
 カラン、カラン、と歩を進めるたび甲高い音がする。
 左右に家の塀が続くコンクリートの道。

 冬の夜、街灯だけが明かりを灯す中、外にいる分だけ体温は冷めていった。
 五分もしないところにある自販機でポカリを買って、それを飲みながら家に戻る途中、向こうから誰かが歩いてきた。

 珍しい。
 こんな冬のこんな時間、外で誰かに出くわすなどあまりないことだった。
 街灯を避けるように道の端を歩くその影は、よく見えない。

 だが、でかい。

 横にある塀に自分は頭も届かないのに、それの体格には肩口までしか達していない。
 おそらく身長は百八十……いや、九十は越えているだろう。
 そうなると、横幅もある。

 ずんぐりとはしていない、がっちりとした腰周りとその腕、足。
 一般人ではあるまい。
 それに、どこか周りの空気が重い。
 これはある種のプレッシャーだ。

 とうさんや気の利いた道場生と戦う時などに感じる、アレ。
 強者のみが持ちうる、歪められた場。

 いつの間にか自分のクセが働いていた。
 明らかに強い、強そうな相手を目にして、勝てるかどうかを勝手に計り出すのだ。
 今回も顔は別の方を向きながら目の端で相手の戦力を計算していた。

 身長は九十として、体重は百……はゆうに越えているだろう。
 パワーでは適わないか?
 だが僕にはスピードと、技術がある。

 だけどこれは、バランスもいい。
 歩き方にそつがない。
 前だけを見ながら不測の事態が起きればすぐに動きそうな気配がこれにはある。

 気づけば、僕は緊張していた。

 近づくたびぴくん、ぴくん、と二の腕の筋肉が小刻みに動いているのがわかる。
 つま足が微かにリズムを取っているのがわかる。
 視界が僅かづつ狭まっていくのがわかる。

 目の前まで迫った時、息を止めた。

 一瞬の交錯。

 僕は相手を目の端で追っていた。
 相手は前だけを見ていた。

 何事も起こらず、気配にも変化は現れず、僕たちは普通にすれ違った。

 ――はぁ。
 無駄な緊張と、無駄に止めていた息を開放し、視界を前に向けた瞬間、

「……怖いかね?」

 耳元で囁かれるような、ねっとりとした息遣いを感じた。

「!」

 目を見開いて全力で振り返り、

 そこには誰もいなかった。

 そこにあるのはぱちぱちと音をたてる街灯とそれに照らされたコンクリートの道路と電柱と電線と黒い空とやたらと目に付く白い星と白くて黒いクレーターまで見える満月だけだった。

「…………」

 大学の二ヶ月もの春休みを明日からに控えた冬の夜道。
 まるで白昼夢を見たような気分が、ある予感を感じさせた
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続きはこちらへ! → 第三章「補色」

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