あの日のその後①

2019年11月9日

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 バスに揺られながら、僕は不意に強烈な眠気に襲われた。

 ここのところ今日のこの告白のことを思ってずっと緊張してたから、その反動なのだろう。
 窓から見える景色もあっとういう間にそれなりに開発された地域を過ぎて、田んぼとか畦道(あぜみち)が見える田舎道になって来ていた。
 その頃から目が霞み、体が浮遊していくような感覚と共に、意識が急速に薄らいでいく。

 家まで二十分ほど。
 それまで眠るのも悪くないかなと思い、僕は意識の底に埋没していった。



 ――僕は小学六年生まで、普通の子供だった。

 父親は確かに空手の道場の先生――もっというと、ある大きな団体の創設者だったし、僕も小学校に入ると同時に父親のあとをついて稽古を始めて、以来ずっと続けてはしたが、それは他の子供が野球やサッカーに没頭するのと同じようなものだし、別にそこまで思い入れがあったわけでもなかった。

 明るい家族だった。

 皆が皆、理想的な役割を演じていたと思う。

 それはもちろん意図して演じられた形だけのもの、という意味ではなく、先天的な素晴らしい配役で構成された最高の家族だという意味だ。
 母親は正しく、どこまでも優しく、父親は強く、非常に豪快で、妹は少し生意気だったけど、とても素直だった。
 僕はこの家族が大好きだった。
 僕は幸せに包まれていた。この中でいつまでも変わらず過ごしていたいと思っていた。

 その僕が変わるきっかけになったのが、ある事件だった。





 小学六年生の夏休み。
 毎年恒例のキャンプに行った時にそれは起こった。

 僕たちが住む早瀬市の、ある一つの小さな動物園が経営難で潰れた。
 その折りにほとんどの動物は引き取り先が見つかったが、一匹のツキノワグマだけがどうしても見つからなかった。
 このままでは保健所行きが決まってしまうことに心を痛めた動物園側の経営者が、無断で近くの山に放逐した。
 それがたまたま僕らが毎年使うキャンプ場の山で、さらにたまたま僕らがキャンプしてた間のことで、しかもたまたま両親がバーベキューの器材を取りに行っている間に遭遇してしまった、という話だった。

 テントの中にまで入ってきた熊は、初めて鉄柵の外で見る人間に怯えていたらしい。
 人間側からすれば理解しづらいことだが、熊は自分を人間より弱いと思っている。
 だからやられる前にやろうと、襲い掛かるらしい。

 その時一番まずいのが、視線を外して下がること。
 要は脇目も振らず逃げること。
 目線さえ外さなければ熊は恐がって襲い掛かれないらしい。

 だけどそんなことを知らない僕たちは、目線も外してガタガタ震えて逃げようとした。
 結果として奮闘はしたものの、沙那は右肩をざっくりと切り裂かれて、僕は胸を打たれて左足を三回叩かれた。

 そのあと意識を失った僕は目覚めると、病室にいた。

 真っ白い壁と真っ白い天井と真っ白いベッドのフレームと真っ白いシーツと真っ白い病院服。

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